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2016年7月30日土曜日

特別公開行ってきた報告(だけ)とか、告知とか

◆んなわけで
 んなわけで、今年もどうにかJAXA特別公開を見学することができました。
 毎年、後の祭りが遥かに過ぎ去ってからまとめてお出ししていたのですが、今年はひとまずどうにか。とりあえずの参加報告だけですが。

幹事は必ず殺すスタイル

VRすげえ!

Windows2000

最先端だけど見た目スチームパンク

ロボット広場(違)建設中

ふんわり

電磁的針地獄

この一杯のために毎年行っている気がしないでもない


 ってなわけで、今年も途轍もなく疲れ果てた次第。
 色々話を(無理やり)お聞きしてきたりしたので、そのあたり、今年もどうにかまとめていきたいところでありますよ。

◆コミケ参加告知
 ヒとかの方ではすでに告知済みでありますが、コミケット90では

 三日目・西地区「て」-07a・Black Dwafさん

 にて委託参加予定であります。
 いつもよりも一週間くらい余裕が無いので、コミケで徘徊記を出せるか微妙なところではありますが、どうにか間にあえー

 そういえば、コミケ翌週(8月21日)のコミティアにも参加する予定です。
 いそがしい……?

◆最近描いた色々
 
物資は食わねどショタは喰う

頭の上が連装砲っぽくなった
おっぱい魔神

英国の嗜み


コミケには艦これとかの色紙を描いていくんじゃないかと。新刊もどうにか……

2016年5月2日月曜日

ふたば学園祭11参加告知

◆ふたば学園祭11参加告知
 開催前日になってやっと告知という体たらくではありますが、どうにかこうにか新刊が無事完成しました!
 宇宙本こと「ISAS/JAXA特別公開徘徊記2015」であります。
 今回印刷方面の方には本当にお世話になりました……ありがとうございます。

 内容はご覧のとおりの宇宙ネタであります。ページ数圧縮のために文字が小さめとなりましたが、密度高めであります。
 オンデマンド出力製本(コピー)の28ページ、300円で頒布予定であります。


この他に、既刊として
「こういさんの本・R-18」(成人向け)と「ツヴァいさんVSOP」(全年齢向け)を持って行きます。あと
こんな感じのグッズを持って行くと思います。


色紙とかも描いていければどうにか。

 配置はF-19「海より深く感謝」であります。
 気が向いたら、適当に覗いてやってくだされー。

2015年10月9日金曜日

奥さん、ニュートリノです

◆奥さん、ニュートリノです
 今年のノーベル物理学賞で、ニュートリノに質量があるという発見での受賞ということで、色々ネタを考えていたのだけど、そもそもニュートリノって何よって事になったので。色々説明しようかと考えたけど、自分の頭じゃ割とつらいと分かったので、分かる範囲で絵にしてみたり。

 いろいろ細かいけどじわりと読んでみてくだされ。


◆ニュートリノを大量に浴びると?
 超新星からの大量のニュートリノの放出とその観測が、先のノーベル賞受賞の原因ともなったのですが、このニュートリノというやつはそうした超新星の爆発や太陽内部の核融合だけでなく、原爆や原子炉からも大量に放出されている。
(ただし、超新星から放出されるニュートリノはやはりケタ違いで、爆発のタイプにもよるが10の49乗~10の53乗エルグ…だいたい10載~10極ジュール…典型的なガンマ線バーストと同等のエネルギーがニュートリノによって持ち去られているらしい)

 さて、このニュートリノ、電磁波ではないので、大量に浴びて焼けるわけでもなし、質量はほぼないので引っ張られるわけでもなし、強い相互作用を受けるわけでもなし……ただ、弱い力(相互作用)だけを受けることになる。

 ならこの弱い力(相互作用)が、目に見えるほどの形で人間に影響をおよぼすとどうなるかというと……弱い相互作用は、核融合や核分裂を担う重要な力。つまり人間の体を構成する細胞、その細胞を構成する原子そのものが核融合や分裂を起こすこととなり……量によっては爆発して消えてなくなります。
 ただでさえほぼ影響を及ぼさないニュートリノ。それをどんだけ浴びればそれだけの影響を受けるかは定かではありませんが……(おそらくは超新星からエネルギーを持ち去るニュートリノ全部をいっぺんに全身に浴びるくらいの量が必要になりそうですが)

◆捕まらないけど跳ね返せる
 どこまでも影響を与えず通り過ぎるだけのニュートリノですが、極超低温の超電導金属に衝突すると、あっさり反射するという特性もあったりします(詳しくはこの辺りで)。これを利用すれば、より高い観測精度や、あるいは解像度を持つ、ニュートリノ天文台とかの建築もできるようになるのかもですよ。

◆んでもって
 ニュートリノはここまで説明してきたとおり、核融合や核分裂によって発生するわけで、そこでこんな話も出で来るようです。
 これは、今回のノーベル物理学賞受賞理由となったニュートリノ質量の研究の、その一端を担ったK2K実験でも活躍したカムランドから発表された論文の一つです。


 今までのニュートリノ観測は、良くも悪くも地球にある数多のニュートリノ源という騒音の中で、微かな天の囁きを聞くような苦労でなされていたのものなんだなぁと。

 さて、今回も素人の理解で描いたものなので、そっちこっち間違ってるやもしれませぬ。
 色々ありますが、どうかご容赦のほど……

2015年8月23日日曜日

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2015に行ってきた話(その3/3・終)

◆んなわけで
 その2からの続きです。
 今回写真イラスト少なめで本当に無念……

★移動がめんどくさい人のための斜め読みリンク★
 その1その2その3

●軌道太陽光発電システム
 静止軌道上に巨大な太陽電池パネルを広げ、そこから発電した電気を地上に送信しようという、軌道太陽光発電システム。今年は文科省と一緒に電力の送信実験をやったはずなのですが、その話聞きそびれたー!!!(今年は、こんなんばっかりだ)
 でも聞けて面白かった話題がひとつ。
 宇宙空間で太陽電池パネルを実際に展開すると、太陽電池側と、発電した電力をマイクロ波にして送る送電パネル側でやっぱり温度差が生じてくる。すると太陽電池パネル全体が少しづつ歪み、結果、マイクロは送電パネルが歪んで送電効率が落ちてしまう。
 今までは、この歪みを修正・調整するためと太陽電池パネルの展開のために、写真みたいな構造と普通のモータを使うことが考えられていた。



 ところが、これだとやっぱり重い。モーターそのもの部品も多いし、チェックが大変になる上に壊れたら修理が面倒くさい。
 そこで今回紹介されていたのがカーボンナノチューブを利用した「人工筋肉」(CNTアクチュエータ)。



 見ため黒いテープでしか無いのだけど、これが電気を流すとギュンギュン曲がる。
 面白い。
 内部に電解液が入っているため、真空中での利用や、太陽光線に晒された時の問題など、まだまだ考えなければならない部分は多いようだけど、なんといっても構造が単純で部品数が少なく、何より軽い。
 もちろんこのCNTアクチュエータ、太陽電池パネルの展開と修正・調整だけに使うのは勿体ないということで、どんどん研究を進めていくとのこと。
 軌道太陽光発電システムから生まれた「人工筋肉」。

 研究の不思議さを思い知らされたり。


●電波天文学
 さて、いつ行っても何か面白い、個人的には興味が深い電波天文学。
 今回の特別公開では、以前から気になっていた疑問が幾つか氷解したり。

 衛星に搭載されるものにかぎらず、様々な観測装置や検出器は、だいたい冷却に対して非常に気を使っている。
 この前の本でも紹介した赤外線天文衛星「あかり」は、観測装置冷却のために、X線天文衛星「ASTRO-H」もマイクロカロリメーターのために液化ヘリウムを搭載し、「あかり」はその蒸発を押さえるために冷凍機すら積んでいたり。
 衛星じゃなくても、地上で使われる赤外線カメラなどは、センサの冷却のために割と大きめのヒートシンクやら何やらが付いている。液化窒素や液化ヘリウムで冷やすことも多い。
 電波天文学でも同様に観測装置に巨大な冷却装置がついていたり、新しく開発された観測装置はマイナス260℃で冷やして性能を大幅に向上させたものもある。
 じゃあそもそも何で冷やすの、ってのが疑問になってくる。
 そこで重要になってくるのが温度。

 電波天文学や赤外線天文学といった分野では、観測目標となる星やガスは、基本的にメチャクチャ冷たい。
 光学望遠鏡で観測できる天体は、光学の名前の通り、可視光線を出して光っている。その表面温度はおおよそ数千℃から数十万℃程度。一方の赤外線天文衛星の場合、狙う天体の温度はだいたい1000℃から氷点下数百℃。電波天文学で扱われる宇宙マイクロ波背景放射に至ってはわずか3ケルビン(だいたいマイナス270℃)しかない。
 こんなに冷たいものの僅かな温度差を観測するとなると、一番問題になってくるのが観測装置自体が持つ熱。
 観測対象よりも熱いもので冷たいものを見ると、観測されたデータが観測装置自身が出す熱などの「ノイズ」のためにかき消されて、何がノイズなのかデータなのかさっぱりわからなくなってしまう。



 なもんで、まず自分自身が出すノイズを抑えるためにガッツリ冷やして、データをちゃんと取れるようにすることがまず重要になってくるのだ。

 じゃあ先に出てきた「ASTRO―H」は、X線天文衛星なのに、なんでヘリウムで冷やすの?、X線源ってブラックホールの降着円盤だったり、超新星だったりするんでしょ?って疑問が出てくる。
 これにもちゃんと理由がある。「ASTRO―H」のマイクロカロリメーターは、「たった一つのX線(あるいはγ線)粒子」が観測機器に衝突した時の温度差を検出する。確かにX線は宇宙にある超高温の場所からやって来るけど、一つ一つのX線の光子で見ると、それほど高いエネルギーを持っているわけではなく、観測機器に衝突した時の温度差は本当に微々たるもの(逆に光子一つでそれだけの温度差が生まれるというのがすごいのだけど)。その僅かな、本当に微かな温度差を検出するには、やはり観測機器は極低温と言われるほどに冷やしておく必要があるのだ。
 ダイナミックな天体活動の中に潜む僅かな変化を検出するためには、ダイナミックに冷やす必要があるのかと改めて驚いた次第。
 で、こうした観測機器は常温だと動かないのかなと思って聞いてみたら…
「ちゃんと動きます。でもノイズがひどくて、観測に使えるレベルじゃなくなっちゃいます」
 なるほどなー

 さてもう一つ謎だったのが、電波望遠鏡で撮影されたとされる様々な画像の謎。
 電波望遠鏡で撮影された画像は、光学望遠鏡で撮影された画像に比べれば解像度は低いけど、ちゃんと一枚の画像になっている。
 ところが電波望遠鏡をよく見ると、光学望遠鏡でよく見られるCCDのような部分がない。もうちょっと正確に言うと「CCDの用に、無数の点で同時にデータを得られるような構造にはなっていない。
 それなのにどうやってあんな画像が撮れるのかな?と思って聞いてみた。したら

「あれは観測範囲全体をスキャンして画像を得ています」

 なんと……
 言うなれば、目標の星空を一本の針で削っていく感覚。
 波長の問題もあるのだろうけど、光学望遠鏡がある意味シャッター一つで空の一角の画像を得られるのに対して、電波望遠鏡は画素の数だけパラボラを左右に振って少しづつ画像を描いているのだ。
 で、もう一つ不思議に思っていたことがある。前の本でも述べたとおり、天文現象はたしかに人間スケールでは変化はほぼ無いけど機材の微妙な変化や観測条件の変化で、得られたデータをただ重ねていくだけでは(コマ撮りのアニメーションを撮影するとライトが明滅してしまったりするように)うまくいかない部分が出てくるはず。
 その辺りはどうやって調整しているのかと思ったら、天文台は光学でも電波でもそれ以外でも、ちゃんとキャリブレーションを行っているのだとか。
 人力キャリブレーションとか、感と経験がモノを言う部分もあるのだけど、面白かったのが星を基準にする方法。
 まず常に同じ光を発しているとか、常に同じ周期で光や電波)の明滅を繰り返すとか、特徴のある星をいくつも探しておく(これは国際的に取り決められた星もあるみたい)。
 観測を始める前に、まずその星を観測して観測機器を調整し、実際の観測を行うのだ。
 なるほど、変光星とかの天体はそのほとんどは(人間スケールで見れば)ほぼ同じ周期で同じ変化をしてくれる。それを基準にすれば、望遠鏡の観測精度が保てる。
 面白い方法だなぁと思った次第。

 あと、今回ちょろっと聞いて驚いたのが、前回の本で説明したスペースVLBI。日本では「はるか」がその役を担っていたけど、今はそうした計画はない。海外でも似たようなもので、例えばNASAはハッブル宇宙望遠鏡の後継であるジェイムス・ウェップ宇宙望遠鏡などの光学望遠鏡に注力しているため、スペースVLBIを行っている所は無いと持っていた。
 したら、ありました。
 ロシアの宇宙電波望遠鏡「ラジオアストロン」が二〇一一年に打ち上げられ、スペースVLBIの一部として現在も運用されていました。
 びっくり。


●ハイブリッドロケット
 さて去年の本でも触れたハイブリッドロケット。今回はもうちょっと詳しいお話が聞けたのでじんわり説明していこうかと。
 説明がある程度重複してしまうけど、そのあたりはご勘弁を。
 まずはハイブリッドロケットって何よって感じなのだけど、これは燃料が固体で、酸化剤が液体だったり気体だったりするタイプのロケットエンジン。
 液体燃料ロケットの代表がH2シリーズ、固体ロケットの代表がイプシロンだとしたら、その中間に当たるロケットと言っていいかも。
 で、ハイブリッドロケットがどんな利点があるのかというと、燃料が固体なんで、扱いが楽だということ。作ったら作りっぱで放置しておいて、打ち上げが決まったらパッと用意できる。固体ロケットとしての長所を持っているのだ。だが液体燃料ロケットではこうは行かない。燃料の製造や保存に気を使わなければならないし、打ち上げの直前までロケットとは別にしておいて、打ち上げ時に注入する必要があるし、打ち上げ中止ともなれば、今度は抜き取る必要がある。そりゃもう大騒ぎ。
 次にありがたいのが、燃料(推薬)が火薬じゃないこと。イプシロンに代表される固体ロケットは、その燃料の中に酸化剤が入っているので、一旦火がついたら勝手に燃え進んでしまう。保存中も爆発などの事故の可能性を常に考える必要がある。ハイブリッドロケットはそもそも燃料(推薬)に酸化剤が入っていないので、消そうと思うなら酸素を遮断してやればいい。
 また酸化剤の流量を変えれば、推力制御もできるし、必要とあれば途中でカットオフ(燃焼中止)もできる。



 液体燃料ロケットと固体燃料ロケットの長所を集めたみたいな感じだけど、短所が無いわけじゃない。というか、固体や液体ロケットと比べると実に微妙な感じ。
 一番大変なのが酸化剤の調整。一回火が付いたら後は勝手に燃え進んでくれる固体燃料ロケットや、酸化剤と燃料を細かく調整することが出来る液体ロケットと違って、ハイブリッドロケットは燃料と酸化剤がどう触れてどう燃焼していくのかまだハッキリとは分かっていない。
 何で分からないのってことなのだけど、推薬と酸化剤が触れる部分の形状(表面状態)が、常に変化し続けていて、予測がすごい難しいのだ。
 酸化剤と燃料の比率は一定であるのが一番嬉しいけど、ハイブリッドロケットはまだ研究の途上であるのも手伝って、中々そうも行かない。燃焼の具合によっては、振動が起こって、エンジン内の推薬が砕けて、予想外の燃焼が起こってしまうかもしれない。そうでなくても、推力制御などで酸化剤を減らすと、その比率が大きく変わってしまう。
 うまく使えれば便利になることは分かっていても、うまく使う方法を模索している状態と言っていいかも。

 でもこうした中でも少しづつ研究が進んでいるようで、最近では観測ロケットに用いてみようとか、観測ロケット級のハイブリッドロケットをクラスタ化、多段化して低コストな超小型衛星の打ち上げシステムを構築していこう計画が進んでいる模様。
 燃焼の問題とか根深そうなところもあるのだけど、興味深いのは相変わらず。ぜひとも上手いこと進んで欲しいところだったり。
 

●小さな体に大きな苦労
 さて、最近日本だけでなく様々な国で活発化している小型衛星の研究開発。
 軽量低価格そして打ち上げまでのスパンの短縮を武器に、小さな体に色々な技術と工夫を詰め込んだマイクロサットは様々な利用と応用が考えられているのですが、小さいからといって苦労も小さくなってくれるかというと全然別。小さなボディにはは溢れんばかりの夢がつまり、うんざりするような苦労が溢れだしていたりします。

・送るに送れぬ多量のデータ
 こうした苦労の中で最近特に注目…というか頭を抱えさせているのが、電力問題と衛星からのデータの送信。
 小型衛星が多機能化、高機能化するに連れて使う電気も増えているのだけど、太陽電池パネルのは、その大きさ(1辺の長さ)が半分になると発電能力が1/4になってしまう(!)。
 電力が十分使えないというのは、衛星にとっては致命的な問題。
 電池の所でも話したとおり、電力がなければ必要な装置は動かせないし、観測した結果を地上に送ることすらできない。
 でも電力不足に関しては、搭載機器の小型化や省電力化が進んでいる今はどうにかやりくりできている状態。
 一方でそうは行かないのが衛星からのデータ送信。省電力化だといって地上にデータを送るときの送信出力を下げる訳にはいかない。
 大電力がれば、ドバっと送ることもできるけど、小型衛星だとそういうわけにも行かない。
 例えば重さ2.1トン、太陽電池の大きさが16.5メートルもある「だいち2号」は、堂々たるアンテナを備え、大出力で送信できるため、地上に800Mbpsでデータを送信(ダウンリンク)することが出来る。しかもデータ中継衛星「こだま」に中継してもらうことも出来る。
 ところが、重さ100キロ程度の小型衛星はそうはいかない。使える電力は限られ、アンテナは小さい。データ送信に使うアンプもちんまり。おかげで、ダウンリンクはせいぜい数十Mbpsくらい。速度差はおよそ20~40倍にもなる。これは遅い。
 でも観測機器などは比較的新しいものを搭載することが出来るため、観測精度は向上し、送るべきデータはどんどん膨大になってきている。
 どうすりゃいいものか。
 というわけでまず考えだされたのが送信波を効率よく増幅して、かつ歪みのすくない小型パワーアンプ。でも根本的に電力が少ない以上、パワーアンプで電波を増幅することで増やすことの出来るデータ送信量はそれほど多くない。
 じゃあどうするか、考えだされたのがスマフォなどの通信で使われるデジタル変調で「電波の一波長分の中に沢山のデータを詰める方法」を利用すること……なにそれ?
 詳しく説明すると、ものすごい面倒くさいので簡単に説明してみる。
 普通、電波にデータを載せる、ということを考える時、下の図みたいな感じで搬送波と呼ばれる電波にデータを振幅に載せて送る方法が頭に浮かぶんじゃないかと。




 ところがそれだと一つの波長の中で送れるデータは1ビットくらいになってしまう。
 そこで搬送波の周波数は変えずに(衛星との通信に使うことが出来る周波数帯域は国際条約で決まっているので、それ以外の周波数が使えない)、搬送波一波長分の並で送られてきた電波を調べてその振幅と「電波がどの位相から始まっているか」を探す。その情報から元々決めておいた表に従って「これはどのデータが送られてきたのか」を探して。一度にたくさんのデータを受け取るのだ。
 幸い、コンピュータの処理能力が高速化したおかげで、衛星から送られてきた電波が「搬送波の周波数で考えるとどの当たりの位相から始まっているか」や「信号の振幅」をちゃんと調べられるようになっている。そもそも、このデジタル変調の方法は、スマートフォンや公衆Wi-Fiなどで高速通信を行うために既に実用化されているのだ(1波長に8ビット分のデータを載せるところまでは実現している)。
 このデジタル変調を使うことで、小型衛星で使うことの出来る少ない電力で高速データ通信を実現しようと言う感じ。
 宇宙ではまだ制約が多いのか、一波長に4ビット分のデータを載せるところまでしか実証実験できていない。けどこれでも348Mbpsという速度が出る。これがどれくらいの速度かと言うと、前回の本でも紹介した「よどほし3号(ハローキティ搭載型)」の約35倍。ダウンリンクの速度が上がると、より細かい観測データが送れるようになる。そうなると、より高度な観測装置を積むことが出来るようになってくる。
 小型衛星で可能な実用分野や実験が増えてくるわけで、速ければ速いほどいい……これからさらにデータ密度を上げて、500Mbpsのダウンリンクが可能可能になるように研究を進めているとのことでした。



・使えるものは裏でも使え
 先に説明したとおり、小型人工衛星の性能が向上するにつれて、各種機材やデータ送信に必要な電力が不足し気味になっている。電力不足なら太陽電池パネルたくさん広げるか貼るかすればいいじゃん、ってことになりそうだけど、重さやら何やらがあって、中々思うようには行かない。折りたたんでいったとしても、広げるときの方法や広げた後の固定があるし、慣性とかの問題でマニューバに手間がかかるとかもある。
 そこで、思いついた方法の一つが「最初っから絶対に必要な部分の使ってないところの利用」。
 小型科学衛星の中でレーダーなど電波を使った実験を行う場合は、電波の送受信を行うためのアンテナが必要になる。アンテナの大きさは直接解像度(観測精度)につながるため、できるだけ広い方がいい。で、大きな(平面の)アンテナを広げることになるのだけど、その裏側は基本的に使われていない。そこに太陽電池パネルを貼ってしまおうというもの。
 もちろん、太陽電池パネルをアンテナの裏に貼ると、太陽電池パネルとアンテナの使い分けが必要になる。
 アンテナを使っている間は、太陽電池パネルを理想的な方向に向けるわけにも行かず、逆に太陽電池パネルを使っている間はアンテナとして利用することはできない。姿勢制御マニューバや、電力をうまくためて使うためにバッテリのことも考えなきゃならない。
 けど、今まで使っていなかった部分の有効活用は、大きさと重さが肝になる小型衛星にとってはとても重要になってくるんじゃないかと。

 小型化から生まれる様々な問題とその解決のための試行錯誤は見ていて楽しく興味深い感じ。もちろんこれは部外者だからそう思うのであって、実際に研究してる側としては数多を抱える毎日なんだろうなぁと。
 マイクロサットも、どんどんおもしろくなってきているんじゃないかと。
 
●アンテナ違い
 前回の本で「はやぶさ2」「だいち2」、そして「あかつき」に搭載されているアンテナはフェイズドアレイアンテナと書いてしまったのだけど、後から色々調べてみたら大間違いだったことに気がついてしまった。
 「はやぶさ2」と「あかつき」に搭載されているアンテナはフェイズドアレイアンテナではなく、ラディアルフィードスロットアレイアンテナ、と呼ばれるもの。長いね。
 ナンじゃそりゃと思われるかもしれないけど、説明するのがとてもめんどい(またか)。
 構造的には、円形のものも、四角いものも基本的には同じで2つの細長い穴が直角に傾いたT字型になっているものが1セットになっていて(フィード)、それがズラっと並んでいる(アレイ)。このT時に並んだ穴の形状は、扱う周波数によって自動的に決まり、穴の位置も式で表すことが出来る。その一方で、穴の位置は正確じゃないと困るので、コンピュータ制御の工作機械で厳密に仕上げられていたり。T字型のフィードの角度を変えると偏波の方向や角度も変えられるらしい。
 これが円環状に配置されているものはラディアル(円環)フィードスロットアレイに、直線上に並んでいる物がライン(直線)フィードスロットアレイとなる感じ。
 さて、アンテナにパラボラ型のものを使わない理由はいくつかある。
 パラボラ型アンテナを使う場合に、一番の問題になるのが、打ち上げ時の体積。巨大な傘を広げたまんまでは収まりが悪い。かといって、打ち上げ後に展開するような形だと、正常に展開できなかったら他の機材が正常でも役に立たなくなってしまうし、展開した後で必要な精度を出すための苦労が大変。
 もう一つの問題は熱。
 パラボラ型のアンテナは、扱いやすくて性能が高い一方で、電波以外も焦点に集めてしまうのだ。
 一番厄介なのが可視光線や赤外線。地球軌道でもかなりの熱になるけど、「あかつき」が活躍する金星軌道あたりだと、もう大変。パラボラに集まってきた光は、副鏡や焦点にある通信機材や観測装置にダメージを与えてしまうのだ。 
 そこでフィードアレイアンテナの出番となってくる。電波のような波長の長い電磁波に対してはパラボラ同様に焦点に綺麗に集まってくれる(もしくは指向性を持って発振してくれる)一方、光のような波長の短い電波に対しては平面でしか無い(◆図必要)。
 これは…ありがたい。

 他にもヘリカルアンテナとかあったのですが、こちらの方はページが増えすぎて紹介を断念……また機会があれば……

 きっちり調べたつもりでも大ポカのミスをしてしまって、前の本を買っていただいた方には申し訳ない反面、間違いを指摘していただいたついでに、新しい色々を聞けたりして全くありがたいやら恥ずかしいやら。
 アンテナもまた深いんだなぁと思った次第。

●んでもって
 なんとかかんとか終わったのですが……
 こ、今回もギリギリになってしまいました……おまけに今回は(も?)積み残し多すぎる……火星パラフォイルの話とか、再使用ロケットとか、熱の話とか、「はやぶさ」が回収してきた塵(ダスト)の解析のお話とか、「IKAROS」関係のいろいろとか、「DESTINY」とか「PROCYON」とか火星飛行機とか「ASTRO-H」とか!

 でも時間ががががが……次に何とかできたら……どうにか……

 どうかお楽しみ頂けたら良い感じで。



 また来年も行くぞー

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2015に行ってきた話(その2/3)

・その1からの続き~
 暑い

★移動がめんどくさい人のための斜め読みリンク★
 その1その2その3


●太陽電池パネルの話
 前の本の電池の話でも出てきたとおり、宇宙に出た人工衛星や探査体は電気で動く。
 もちろん軌道や姿勢を制御するために、燃料は積んでいるけれど、コンピュータや観測機器は、エンジンからシャフトでつながっていて回せば動くというシロモノじゃない。動かすためには電気がどうしても必要になる。 
 そのため人工衛星や探査隊には必ず電力源を積んでいる……当たり前すぎるけど、これがまた大問題。
 原子力電池などを用いる外惑星深宇宙探査体などを除けば太陽電池パネルは、人工衛星や探査隊にとって文字通りの生命線となる最重要部品の一つ。性能はもちろん、絶対に動いてくれないと困るというか、可能な限りの最高の動作しなければならないという使命がある。
 なのにこの太陽電池パネルというのは、ほとんどはまっ黒か深い藍一色で、故障してるのか不良品なのか、見た目じゃさっぱりわからない。
 さらに実際に光を当てて所定の電力が発生できたからといって、広い太陽電池パネルのすべての部分が問題なく動いているかというと、そうじゃないかもしれない。ものすごく検査しにくい。探査体や人工衛星に用いるとき、製造段階での良品不良品の検査が難しい、あるいは故障の有無がわからないのは非常に厄介な欠点なのだ。

 こうした欠点をもつ太陽電池パネルの検査に使われる方法として、「太陽電池に光ってもらう」という方法がある。
 光るのかよ!?と突っ込みを入れたくなるが、太陽電池パネルは、基本的は構造としては通電させると光るLEDをだだっ広くしたようなもの。通電させれば光るという性質があるのだ(パネルのタイプなど依るので全ての太陽電池パネルが必ず光るわけではない。要注意)。 
 で、実際の画像がこれ。

本の方では色潰れでわからないものに……

 写真に写っている黒い板の右側の二枚が、通電させて光っている太陽電池パネル。その二枚の内、左側の一枚の下の部分が光っていないが分かるだろうか。
 これは太陽電池パネルが故障して、全体に電流が流れないため、光らず真っ黒いままだったり。
 なるほど、これなら正常に動作しているかどうかは目でわかる。同じ電流を流して、パネル全体が均一に光ってくれれば故障していない、というのが目で見てすぐ分かる。
 なんとも便利な予想の斜め上の方法。知っている方には当たり前の話かもしれないのだけど、知らないとびっくりだよなぁ……ビックリした。



●宇宙素子は頑張っている
 さて、人工衛星で使われる様々な電子回路には、いつも使っている家電製品の中に入っているものと同じ民生品から、研究室の中で数個だけ作られたほぼワンオフのものまで、様々なものが用いられている。これれは予算の高い低いや、その素子に求められる様々な性能や条件によって何がどう使われるか決まるのだけど、実際の宇宙空間で使われる電子回路には、地上で使われるものとどんな違いがあるのだろう?
 これは実は回路としては、ほぼ変わりなかったり。コンピュータは命令に従って様々な判断や制御を行うし、太陽電池パネルは発電を、バッテリやコンデンサは充電をする。地上のものとの違いなんか全然ない。
 じゃあ何が違うのというと、使われる環境。当たり前と言われればそれまでだけど、宇宙空間には空気はない。引力もほぼ無い。その一方でこれでもかというほどの放射線が飛び交っている。
 まとめてみると次のようになるだろう。

・空気がない(極端に薄い)
 以前の本の熱関係の部分でも言及したけど、空気がないので、放熱が非常に厄介な問題になってくる。内部で発生する熱は、ヒートパイプなどで運べるにしても最終的には放射だけでしかできない。
 なもんで、このあたりきっちり設計しておかないと、部品が焼け焦げるとか割と多いのだとか。特にトランジスタや抵抗など、発熱しやすい部分は身長に設計する必要がある。
 また、空気が無いため温度は地上ほど安定していない。太陽光を浴びれば極端に熱くなるし(だいたい150℃)、日陰に入れば凍りつくほどに冷たい(マイナス100℃)。表面ほどではないにせよ、衛星内部でも昼と夜とで90℃ほどの温度差が出てくる。さらに昼側に居ても、影になる部分と日の当たる部分の温度差は大きい。
 これが、地球集会に合わせてだいたい90分に一回にやってくる。45分毎に昼と夜がやってくるのだ。となると使われている様々な部品が暖められたり冷やされたりする。これは材料にとっては大変な負荷になる。

・空気がないので色々蒸発する
 プラスチックやゴムといった材料は、その素材の中に可塑剤と呼ばれるものが含まれている事が多いのだけど、真空中ではこれが蒸発(揮発)してしまって「アウトガス」と呼ばれる厄介者になってくれる。どんな風に厄介かというと、色々面倒なんだけど、特に困るのが鏡やレンズといった光学部品にひっついてしまった時。地上でチリひとつどころか、細菌ほどの大きさの汚れも許さないほど磨き上げられたレンズや鏡を、丁寧に汚していってくれるのだ。こうしたアウトガスがくっついて問題になることを「コンタミネーション」と呼ぶ(生鮮食料品の加工で問題になってくるアレと同じ)。他にも、アウトガスが出てしまう事によって、プラスチックやゴムなどの材料そのものの性質が変化してしまうという問題もある。

 じゃあ可塑剤の入った素材を使わなきゃいいじゃんということになるのだけど、世の中そんなにうまくいかないもので、プラスチックやゴムはやっぱり便利な素材特性を持っている。
 そこでまず大切になってくるのが材料の選定。
 本当にそこにプラスチックやゴムを使うべきかどうか、使わなくていいところには、セラミックなどの他の素材を使うなどして回避し、本当に使うべきところに限ってはしっかり使うというメリハリを付けた利用をまず考えなきゃならない。
 また、発生してしまったアウトガスで機材などが影響を受けないように、ガスの出る部分と影響を受ける部分を最初から分離するというのも、衛星を設計していく中で重要なポイントになってくる。
 次は、実際に宇宙空間に出た時。かならずアウトガスが出てしまうのなら、最初から問題にならないように出してしまえという方法。衛星全体を温めて積極的にアウトガスを蒸発させ、衛星内から追い出すのだ。これは「ベーキング」と呼ばれて、直訳すれば「オーブンで焼く」という意味。「はやぶさ」や「はやぶさ2」でも、探査体内のガスを追い出すために行われている。
 ただしこの「ベーキング」という単語、衛星内のガスを追い出すという意味の他に、外惑星軌道などにいる極端な低温環境にある探査体を、動作可能範囲の温度まで温める保温作業に対しても使われるから要注意。また宇宙開発以外の分野でも使われることもある。
 
 この真空での揮発という問題は、コンタミ以外にも、回路に使われる電子部品の選び方にも影響を及ぼしてくる。
 一番めんどくさいのが、電解コンデンサが使えないという点。電解コンデンサは「電解」の名の通り、中に電解液が入っている。去年の本の電池の話で言及したように、真空中だとこの電解コンデンサが沸騰して揮発してしまい、使いものにならないのだ。動力に用いるような大きなバッテリなどであれば、厳密に密封した上で使えないこともないけど、様々な素子を組み合わせる電子回路の中で使えない。最近では、積層セラミックコンデンサなど、電解液を使わないで高性能なコンデンサも出てきてはいるのだけど、使用される温度環境で大きく性能が変わってしまったり、電圧の掛け方によっては容量が変化してしまったりして(特に高級オーディオ用としては殆ど使われない理由の一つ)、簡単に置き換えが出来るわけじゃない。場合によっては回路を最初から設計しなおさなければならない事もあったりして、とても難しかったり。

・重さがないのは大問題
 人工衛星や探査体はあたりまえだけど、宇宙を飛んでいる。宇宙を飛べるということは、重力がない……訳じゃないのだけど、事実上無重量状態と考えていい感じ。
 となると、衛星や探査体だけじゃなくて色々なものが飛べるということ。
 何が飛ぶかというとゴミが飛ぶ。
 すごい困る。
 人工衛星の製造時の写真を見たことがある人は少なく無いと思うのだけど、その写真でよくみんなしてクリーンルームの中で白い割烹着みたいなのを着て、帽子とマスクをかぶり、靴下のお化けみたいなのを履いてウロウロしているのは、体や服から出るゴミを何が何でも避けたいが為。
 もし万が一、衛星や探査体の中にゴミが入ったり、衛星の中でゴミが発生してしまうと大騒ぎになる。
 衛星や探査体の中は、宇宙に出てしまえばもちろんほぼ無重量。それまで「下」に落ちていたゴミがフワフワと浮いてくる。どこに触れるかわからない。すごい困る。
 様々な姿勢制御の時もまた困る。どこにすっ飛んでいくかわからない。可動部分の間に挟まるかもしれないし、どこかの電気系に挟まってショートするかもしれない。燃料系に引っかかったら……

 そんなわけで、ゴミが中に入る事は絶対に避けたいし、打ち上げ時の衝撃で衛星内部にゴミが出てしまうことも避けたい。もしゴミが衛星の中で出てしまっても、それがどこかに触れて問題が起きるのも避けたい。
 そこでまず行われるのが、コーティング。衛星内部を全部コーティングしてしまうことで、衝撃を受けても中にゴミが飛び散らないようにするのだ。このコーティングにはまた、衛星内部の温度を均一にするという役目も持っていたり。
 衛星に使われている部品そのものからゴミを出ないようにする試験もまた行われている。これはPIDN試験と呼ばれるもので、チップや回路に色々な振動や衝撃を与えて、「カラカラ」と音がするかを聞いて、内部にゴミがあるか、あるいは発生したかを確かめるもの。この試験にパスすれば、打ち上げ時の衝撃などで衛星内にゴミが出ない、または出ても影響が少ない可能性が高い、という事になったり。

・余計なものもあるわけで
 ここまで述べてきたように、宇宙空間には空気と重力が無く、これらが予想もしなかった問題を引き起こす事になるのだけど、逆に地上にはほとんど無くて、宇宙に行ったら豊富すぎて困るものもある。
 それは、宇宙線。宇宙「船」じゃなくて宇宙「線」。
 地球では分厚い大気層やら磁場に遮られて地上にはほとんど届かないのだけど、宇宙空間には大気がないから宇宙線は飛び放題。衛星や探査体に直接ガンガンとぶつかって来てくれる。
 じゃあ実際には宇宙にはどんな放射線があって、どんな風に影響が出てくるのか、というのを見てみよう。

 そもその宇宙線って何よ、って言うことになるのだけど、宇宙を飛び交う放射線のこと。
 放射線だったら、人間はともかく機械には影響ないんじゃないの?って思われるかもしれないけど、そんなことは全然ない。放射線に対しては、場合によっては機械は人間より脆かったりする。
 さてその宇宙線、大雑把に分けて3つある。
 一つ目は銀河宇宙線。なんだか鉄道路線みたいだけど、宇宙空間を飛び交う放射線の一つで、銀河宇宙の名前の通り四方八方あらゆるところからやって来る。その正体は、遠い星の超新星爆発や数多くの銀河系の中心にあるブラックホールなど、太陽系の外側からやって来る。数は少ないものの、ほとんどはヤケに重い粒子で、光の速度に近い速さで突っ込んでくるヘビー級の放射線。当たると痛い。
 2つ目は太陽粒子線。太陽風はプラズマだけど、こいつは太陽表面の爆発現象(フレア)などで吹き出てくる高エネルギーの粒子で、そのほとんどは陽子。太陽活動が活発なときにやってくる。割と速くて痛い。
 3つ目は捕捉粒子線と呼ばれるもの。太陽から出てきた太陽風やフレアなどに含まれる粒子が、地球の磁場に捕まったもので、ヴァン・アレン帯はその補足粒子線が集まった部分と言っていい感じで。ヴァン・アレン帯は内側(軌道の低い部分)に陽子が、外側(軌道の高い部分)に電子が詰まってて、人工衛星は軌道の高度によって、どっちか、もしくは両方の影響をうけることになる。あんま速くない。


 さて、これら三種類の宇宙線、衛星に与える影響も様々なのだけど、これも大雑把に分けると2つ。
 一方はシングルイベント効果(SEE)と呼ばれるもの。メチャクチャ高速な重い粒子が衛星内の電子回路を貫通していく時に発生するもので、半導体が壊れたり、壊れなくても誤動作したりする。
 もう一方はトータルドーズ効果(TID)変異損傷効果(DD)と呼ばれるもの。どちらも宇宙線が少しづつ電子回路やその素子の性能を劣化させていくもの。
 このうち、トータルドーズ効果は主に電気回路に問題を引き起こしていくけど、衛星内部の遮蔽をうまくやれば、ある程度は影響を軽減できる。けど、現状では影響を完全になくすほどの遮蔽はできないので、少しづつ劣化していく。
 変異損傷効果は、遮蔽することで影響を大きく軽減することができるので、衛星内部に影響をあたえることはあまりない。けど、この損傷は太陽電池パネルに引き起こされる。さすがに光に当てないと発電してくれない太陽電池パネルを遮蔽するわけにも行かないので、結果太陽電池パネルは必ず一定の割合で劣化していくことになる。

 前回の本でもとりあげた「はやぶさ」も、途中で遭遇した太陽フレアの影響でメモリエラーを起こしてプログラムなどを再送信する必要に迫られたり、太陽電池パネルが回復不能な劣化を引きおこし、特に電力を動力源とするイオンスラスタを搭載していたがために、最後まで電力不足に悩まされたのを覚えている人もいるかもしれない。

 このあたりの、どの宇宙線でどんな影響が起こるのかを図にまとめてみたり。



 で、こうした宇宙線の影響は高度によっても大きく変わってくる。
 低軌道と呼ばれる高度2000km以下の周回軌道では、ヴァン・アレン帯のうち、陽子の多い内側の部分の影響を受けやすい。国際宇宙ステーション(ISS)も、このあたり(高度400kmくらい)を回っている。
 中軌道は、高度2000kmから35786kmの静止軌道あたりまでの周回軌道。軌道の取り方でヴァン・アレン帯の内側外側両方の影響を受けることになる。
 静止軌道は、地球の磁気圏のギリギリに位置していて、銀河宇宙線や太陽粒子線の影響を強く受ける。
 静止軌道に向かう途中の静止トランスファ軌道が一番大変でヴァン・アレン帯を横切ることになって、この間割と強い宇宙線に晒され続けることになる。

 人工衛星や探査体は、その目的とする軌道やそこに「居る」(その軌道を撮り続ける)時間を考えて、宇宙線対策をしていかなきゃならないわけで。



 じゃあどんな対策してるのん?ってことになるのだけど、主に使われるのが「多重化」と呼ばれるもの。
 CPUだったら同じCPUをいくつも積んで、使ってたCPUが故障したら他のCPUに処理を移行させたり、CPUに同じ処理をさせて、その結果を多数決で決定して結果を出すみたいなことをしている(古くはNECのV60シリーズあたり既に実装されていた機能だけど)。
 メモリの方も、同じデータを何度も書いたり(データの多重化)、チェックサム(データの値を足し算するなどの一定の計算方法で答えを出して、その結果が合致していればデータは壊れていない、でなければデータが壊れていると判断する方法)をとったりして、宇宙線の影響を最小限に抑えられるよう工夫している。

 またCPUなどの電子部品そのものもサイクロトロンなどの放射線発生器などを使って劣化の具合を調べたり、その結果を元に劣化対策を施したりするおかげで、現在の最新のCPUと同等のものが宇宙用に使えるようになるまで、だいたい10年はかかる感じで。
 たとえば、2003年に打ち上げられた「はやぶさ」には、1994年に発売されたセガ・サターンに搭載されていたSH-2の強化型、SH-3が多重化されて搭載されている。宇宙はセガハードで溢れているのだろうか(溢れていません)
 
 ここまで人工衛星や探査体で使われる電子回路が宇宙で色々苦労する理由とか説明してきたけど、あらためて地球というのは色々恵まれた環境なんだなぁと思ったり。でも一旦宇宙に出てしまったら、どっちを向いても宇宙なわけで、これから使われる電子回路は、ますます宇宙で使われることが多くなるのは間違いない感じで。
 これからの進歩が待たれるところだったり。


 そんなわけで、その3に続くのです。

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2015に行ってきた話(その1/3)

◆そんな感じで
 気がついたらあっという間に夏コミも過ぎ去り、涼しかったり暑かったりでますますぐったり感あふれる状況となってしまいましたが、なんとか更新。

◆今年も
 今年も例によって2015年7月24~25日に開催された、JAXA相模原キャンパス特別公開を見に行ってきました。
 例によって色々見てきたのですが、去年・一昨年ほどではないにせよ猛烈な暑さと突然の雨、んでもって見学する順番を見誤ったり、見学二日目にコンデジを忘れるという大失態をかましたりして、色々と痒いところに手が届かない感じになってしまいました。
 それでも今年も色々みっしりと見聞できたので、適当に。
 今回、直前になってドタバタが発生した影響を食らって、イラスト少なめになってしまったのが超無念……増補できたら良いのですが……

 例によって「自分が分かればいいや」って感じで話を噛み砕いたり、適当な事書いていたりしますが、個人のアレってことでどうかご容赦を

 このサイトの内容を情報源にしてはなりませぬ。

 あと、今回も例によって内容は同人誌として纏めてあります。リンク先(Tumblr)に内容をベタで貼ってありますので、そのまま出力すれば買わずに読めます(容量の関係から若干解像度は落としてあります)。ただし内容としては本ブログが常に最新です。

 また、「ISAS/JAXA特別公開徘徊記2015」は夏コミの新刊となりましたが、8月30日に開催予定のコミティア(委託先:V30b「Black Dwarf」)及び10月4日開催予定のサンシャインクリエイション2015Autumn(委託先当落不明)で委託販売させて頂ける予定です。
 2014年までの徘徊記をまとめた「STARS AND THE EARTH」も残部僅少となりましたが、どうにか持っていければと……どっかの相模原の研究施設から100部くらいまとめて発注があったら改訂の上再販できるんだけどなぁ!(無茶言うな)

 あと、去年の特別公開見学記を読んでおくとわかりやすい部分が多いかもですよ。本当は前述した「STARS AND THE EARTH」が良いのだけど既に残部が……。
 2013年のレポートはこっちの方で。2014年のレポートはこちら2015年のレポートはこちらでありますよ。

 そんな感じで若干脱線しましたが、どうにかこうにか始まりであります。

★移動がめんどくさい人のための斜め読みリンク★
 その1その2その3


◆アストロバイオロジー
 去年の段階では計画中だった、「たんぽぽ計画」。これはISSの「きぼう」モジュールにエアロゲル製のダスト回収ユニットを搭載し、宇宙空間を飛び交う塵(ダスト)や微細隕石を回収調査することで、生命や、その痕跡を探すもの。ISSの軌道であれば、地球由来のものであれ、地球外由来のものであれ、生命やその痕跡が発見できれば、人間のような知的生命体の助力なしに生命は宇宙を自由に?飛び交うことが出来ると証明できるというものなのですが、今年は無事打ち上げられ(2015年7月時点)、ISSの「きぼう」モジュールに搭載されたということでした。
 これから一年め、二年目、三年目と少しづつ回収し、宇宙に飛び交うダストの中から、生命の痕跡などを探していくようです。


◆「あかつき」と重力井戸
 軌道制御用のメインスラスタ(OME)の破損と軌道投入失敗以来、ずっと灼熱の太陽に背を向けて耐え抜いてきた金星探査機「あかつき」。
 7月に、三回に分けて行われた軌道修正マニューバも無事成功した模様。二回目の軌道修正マニューバの日は、ちょうど特別公開の初日と重なっていて、「あかつき」の展示コーナーにも「みんなで払ってます」的な表示が出てました。
 で、今回の軌道修正マニューバには、破損したと考えられているOMEではなく、姿勢制御用のスラスタ(RCS)が使われていたいり。
 軌道制御エンジンとも呼ばれるメインスラスタは、セラミックスラスタの名の通り、燃焼器とノズル全体がセラミック製であるものの、構造としては通常のロケットエンジンで、燃料としてヒドラジンを、酸化剤として四酸化二窒素を利用している。ヒドラジンと四酸化二窒素を利用するのは、長期間にわたってタンクの中に貯蔵していても変質しないなどの利点があるため。
 一方のRCSは燃料としてヒドラジンを使う点は同じだが、ヒドラジンを触媒を用いて分解し、噴射を得ている。
 さてOMEに使われているセラミックスラスタ。いろいろと言われていはいるけど、ちゃんと一回目の噴射と軌道修正には成功している。
 じゃぁ何で二回目に吹っ飛んだのというと、燃料タンクを加圧するためのヘリウムタンクの逆止弁がうまく働かなかったから。このおかげで、燃料が決められたとおりに供給されなくなってしまい、エンジンが破損してしまったのだ。破損の理由も、燃料の供給が減った結果、本来想定されていたよりも燃料と酸化剤の混合比がより「効率的」になって高熱となってしまったからというもの。
 また、燃料の逆止弁が詰まってしまったのも、樹脂材料が酸化剤の四酸化二窒素を透過してしまう性質があり、それで酸化剤が燃料と混ざって(燃焼じゃない化学反応で)結晶ができて…というもの。
 こうした自体は想定されていなければならないものの、新しいエンジンを使うときに付きものである「やってみなきゃ分からなかった」という部分なのかなと。

 それでも例によっての、ギリギリの運用でなんとか軌道修正を果たした「あかつき」 。次は十二月の軌道投入マニューバのまで、また静かに耐える日々が続きそうで。

 さて一方で7月14日に冥王星への最接近を果たしたニュー・ホライズンズ。地球軌道の外側、外惑星への接近観測が、古くは「パイオニア」や「ボイジャー」。最近では「ガリレオ」や「カッシーニ」など比較的多く行われているのに対して、水星と金星の2つの内惑星に対して接近観測はそれほど多くない。周回軌道に乗っての観測ともなれば更に少なかったり(金星周回探査はベガ計画や「マゼラン」「ビーナス・エクスプレス」など、水星周回探査は2015年5月に水星に激突した「メッセンジャー」のみ)。
 これには、なんといっても太陽という巨大な星が関係していたり。
 星は簡単に言うと重力場という巨大なすり鉢状の穴の底に鎮座している。これは「重力井戸」と呼ばれるもの。
 金星や水星を探査しようとする時、太陽が作り出す巨大な重力井戸という急斜面の、その途中にある小さな穴に探査機を送り込まなければならないのだ(◆図必要)。
 水星あたりになると、その周囲を周回しているだけで太陽に引っ張られて軌道が歪んでしまうほど。
 一方、土星や木星の重力井戸も決して侮れない。太陽に比べれば小さいものだけど、宇宙を放浪する砂粒にも見たい内容な探査機にとっては、その重力井戸は巨大過ぎる。
 太陽の重力井戸という斜面の途中に、別の巨大なすり鉢があって、それが動いていると考えるとわかりやすいかもしれない(余計にわからないかもしれない)。
 そんな穴だらけの斜面がある中で、冥王星のようなヤケに遠方でムチャクチャ小さい目標の周囲を回る軌道に乗せるというのは、無茶ぶりもいいところ。
 それでも近くを通過させたい、というだけなら思いっきり「力強く投げて」やればいい。巨大なエンジンで加速してやればよいのだ。
 ところがそれでは近くを通過するときに、観測する時間が充分にとれなくなってしまう。だから木星や土星の重力井戸に捕まらないように(かつその重力を利用してスウィングバイで加速するなどしつつ)充分に速く、かつ観測するだけの時間がしっかり確保できるようにしなきゃならない。調整が面倒くさいすぎる。
 周回軌道を取るとなるとさらに難しい。冥王星のように外側に行くにせよ、金星水星のように内側に行くにせよ、ゆるくなげて、かつ他の惑星や太陽の重力井戸に捕まらないようにしつつ、時間を掛けて到着する必要がある。。
 例えば、前に出てきた「メッセンジャー」は打ち上げから水星周回軌道に到達するまで6年(その前に何度か接近探査を行ってはいるけど)掛かっているし、「ベピ・コロンボ」も、打ち上げから水星到達まで6年を要する予定になっている。周回探査は、貴重な知見を与えてくれる一方で、そこに至る道はヤケに遠くてめんどくさい。

 でもどっちの場合にも、十分な加速性能を持つエンジンが搭載されていれば、こうした時間は最小限で済む。十分なスピードでぶん投げた後、探査隊が自分で減速すればいいのだ。
 「あかつき」も、打ち上げ時の軌道(惑星位置)に恵まれていたとはいえOMEが正常に動作していれば、打ち上げ後約半年で金星周回軌道に乗ることができたわけで、そうした意味でもセラミックスラスタやイオンエンジンみたいな「惑星間空間を効率よく飛ぶための」高性能エンジンの開発は欠かせない感じで。
 

◆「れいめい」の運用
 2005年8月の打ち上げ以来、ついに運用が10年めに突入しそうな高機能小型科学衛星「れいめい」。
 前回は主にバッテリ関係の話題で取り上げたのだけど、100kg未満のいわゆるマイクロサットに分類されるDESTINYのご先祖様とも言える衛星。
 軽量低コスト化のため民生用(宇宙空間で運用されることを前提に設計されたものではなく、普通に車載用として販売されている)のCPU、GPS、リチウムイオン電池を搭載したり、光ファイバージャイロセンサーを搭載したり、安価で簡単なシステムで衛星の自動運用をテストしてみたりと、様々な新規技術やコスト軽減策を盛り込んでいる。その一方で、小型衛星であり、小さなプロジェクトであることを活かして衛星運用のためのノウハウを若手の科学者や技術者に習得継承してもらうという役割も担っている感じで。
 もちろん衛星そのものの主な目的であるオーロラやそれに関係する磁場圏の観測でも充分な成果をあげていて、オーロラのある種の観測(地球の磁力線と地表が交わる部分でのオーロラの観測)では、現時点で最も細かい時間間隔と最も高い解像度で観測している。
 で、衛星側、地上局側の両方が様々な問題に遭遇直面し、それらを解決しながら運用を続けてきたわけなのだけど、この10年の間に予測もしていなかった問題に遭遇し始めている。

 もちろん、軌道上にある衛星の機能のある程度の劣化は最初から想定されていたものだし、数年の運用を予定してきた「れいめい」が10年間運用を続けたれた事は、それだけでも貴重な情報。
 ところが、最近になって、地上局側に想定もしていなかった問題が持ち上がりつつあったいり。
 長期運用の中で現在問題になっているのが、地上局側で用いられている管制のためのコンピュータシステム。これらは、コストを下げるために、全てではないにせよ、多くの部分に市販のPCやソフトウェア、あるいはフリーで手に入るそれらが使われているのだけど、これらが最近になって更新が困難になってきている、という問題に直面している。

 導入直後はハードも比較的新しく高性能なものだったけど、市販品、フリー問わず、ソフトウェアがアップデートを繰り返す中で、運用しているハードウェアへのサポートが終わってしまうという事態が起こり始めているのだ。同様にハードウェアの更新もまた問題となっている。
 ここまでの話の限りではソフトとハードの更新を同時にすればいいんじゃね?と思われそうだけど、そのあたり聞きそびれたー!
 また、小型でコストが押さえられているとはいえ衛星の運用には予算が必要。もちろん、予算は成果に応じてしか得られない。数多くの優れた観測といった「目に見える」成果だけでなく、民生品の活用、や若手技術者や科学者へのノウハウの習得継承、長期運用における問題点の発見と解決という「目に見えない」成果を数多く挙げていたとしても、中々思い通りに行くものではない。
 予算は結局成果に対してしか得られないため、充分な成果を上げていないと判断されれば、予算は付かない。結果「その衛星が生きていて、まだこれからも長期運用に耐えうる状態」であっても、その衛星を「捨てる」という選択を得ざるをえないかもしれない、という問題が発生しているのだ。
 もっとも、これは「れいめい」だけの問題ではなく、実用でない科学衛星や惑星探査機は常に予算の削減と戦っているような状態と言ってもいいのかもしれない。

 衛星の長期運用が可能になっていくと、それだけのノウハウの蓄積とコストダウンが望める一方で、観測機器やシステムが旧式化し、得られる情報も最新式の観測機器に比べれば、限られたものとなっていってしまうのは間違いないし、仕方ない感じ。
 ただこうしたノウハウが新たな科学技術衛星の運用で無駄になっていくことは少ないんじゃないかと。
 より少ないコスト、小さいロケットで優れた科学衛星、新宇宙探査体を打ち上げることだって出来るようになるかもしれないし。
 そうしたアップデートと長期運用のバランスを取りつつ、色々試していって欲しいなぁと思った次第。


◆またもや電池の話
 前回色々面白すぎた電池の話、今回もまた色々と面白い話が沢山たくさん。
 前の本で紹介した「サバチエ(サバティエ)反応」は、基本的には水素と二酸化炭素を高温高圧下で反応させてメタンと水素を発生させる化学反応。
 それを日本の科学者が触媒などを利用して常温常圧の条件で(しかも発電させながら)進行させることに成功したというのがポイントだった。
 さてこうした反応で、得られる様々な炭化水素。これらには重要な意味がある。
 そりゃたしかに工業原料かもしれないけど、それ以上の意味があるの?と思われるかもしれないけど、そのあたり順を追って説明してみようかと。

●水素は逃げる
 さて、幾つかの生成物があるのだけど、特にメタンを中心に説明していく方向性で。
 メタンは化学式で書くとCH4。炭素一つの水素が4つくっついた、炭化水素としては一番単純なもので、人間には特に害はない(もちろん酸素のかわりにメタンを吸うみたいなことをすれば窒息するけど)。屁とか臭いですぐメタンを想像すると思うけど、メタン自体は無味無臭の気体。めっちゃよく燃える。
 地球温暖化物質の一つとしてもよく挙げられるけど、そんなもん何で重要なのん?って感じ。
 でも、とても大切なのだ。

 さて、燃料電池というものは、水素と酸素を利用して電気を生成し、反応物として水を排出する。その量は、1kW級の燃料電池で一分間に約1ccくらい。水蒸気そのものの、地球温暖化物質として扱われることがあるけど、今回はそれは考えないことに。
 問題なのは、この逆。水を電気分解して水素と酸素を作ったときの場合。酸素は特に問題ないのだけど、水素は意外と困った性質を持っている。非常に燃えやすいのもあるのだけど、集めにくくて、とにかく軽い。
 どれくらい軽いかというと、容易に地球の大気圏の上層部に浮かび出て、太陽風で吹っ飛ばされていくレベル。
 ただでさえ原子のサイズが小さいために、隙間から抜け出やすいのに、抜け出たものを回収するのは非常に難しく、逃げた水素は宇宙空間に散っていってしまうのだ。
 水素が散っていくとどうなるか。
 酸素は残るものの、それとくっつく水素が無くなるため、結果的に地球から水が失われていくことになる。


 電気分解を用いて、水から燃料電池の「燃料」とんなる酸素と水素を生成する事で、地球からどんどん「水」を消滅させてしまう。
 今の時点では、燃料電池も一般的な電源とはいえず、こうした水の電気分解は、それほど積極的に行われているわけじゃない。でも燃料電池がより効率的になり、様々な場所で使われるようになてくると話は変わってくる。
 工業的、大々的に水の電気分解が行われることで、地球の水を目に見える形で減らしてしまうかもしれないのだ。
 そうしたことを防ぐために考えられているのが、電気分解で生成した水素をその場で炭化水素に変換すること。
 一旦メタンなどの炭化水素に変換してしまえば、単体の水素に比べて、回収しやすく保管も用意になる。扱いがグッと楽になる。液化する温度は水素がマイナス253℃なのに対して、メタンはマイナス162℃。この温度は安価に作ることのできる液化窒素(マイナス196℃)よりもはるかに高く、容易に液化させる事ができる。
 原子のサイズも水素よりかなり大きいため、密封のためのシール材を高性能なものにする必要もなくなる。金属と水素が触れ合うことで発生する金属の劣化(水素脆性)を気にする必要もなくなる。
 何より水素が宇宙に逃げて行くことを抑えることが出来る。
 二酸化炭素、水素、水、そしてメタンと発電のサイクルを組み合わせて循環させることで、二酸化炭素の回収と再利用。そして水の維持を図ろう、という感じ。
 メタン・二酸化炭素の循環型社会を目指しているのだ。
 で、最初に実験のための目標としているのが国際宇宙ステーション(ISS)。
 近い将来、まだ国際宇宙ステーションが稼働している間に、こうした循環システムの実験が行われるんじゃないかと。

 さて、ここまで説明してきたメタンのような、水素をエネルギー資源として利用しやすくするために、他の物質と化合させて扱いやすい状態にしたものは、「エネルギーキャリア」と呼ばれている。現在主に研究が進められているんが、アンモニア、シクロヘキサン、そしてここまで説明してきたメタン。
 何でメタンとかなのん?という疑問が出てくるだろうけど、一番簡単な利用は、こうした物質は今ある化学工場や保存設備とかがそのまま転用できるのが大きい(メタンはいわゆるLPガスや都市ガスの主な成分の一つ)。新しい設備投資を抑える事ができるのだ。また、現状では、メタンは質量や、体積当たりの水素密度が比較的高く(アンモニアに次ぐ)、またここまで説明してきたとおり、二酸化炭素を利用したエネルギーサイクルに組み込みやすいという点もあったり。
 こうした研究は、まだまだ途上で、どのエネルギーキャリアが主流となるのか、あるいは別の方法が生み出されるのかはわからないけど、追っていて楽しい話題。どうなっていくのか目が離せない感じで。

・なかなか小さくならない電池
 さて、人工衛星や探査体の重さのうち、電池で占められる割合はだいたい7%くらいだと言われている。コンピュータなどの電子回路や一部の電力回路は、半世紀ほどの間に半導体技術の進化で一気に進歩し、小型高性能化と低価格が進んでいるのは、ここで説明するまでもないんじゃないかと。
 電子回路の方は、真空管を祖として考えたとしても、1902年の二極真空管の発明がもっとも古い。いわゆるコンピュータの祖と言われているENIACは1946年に完成。電子回路でない、しかも完成することのなかった「解析機関」の発明ですら1837年になってからだったり(それでも充分すごいのはここでは置いておく感じで)。
 1966年に開発されたアポロ宇宙船のコンピュータ(アポロ誘導コンピュータ)は、動作クロック1MHz(入力クロックは2MHzだけど内部で分周されている)、搭載メモリ容量(RAM)が4キロバイト(ただし、レジスタが16ビットワードだったので実質2キロバイト)。価格はだいたい10億円程度ではないかと言われている。
 既に退役したスペースシャトルだけど、元々宇宙往還機として設計された理由として、当時は非常に高価だったコンピュータユニットを、一回の打ち上げごと使い捨てるのは予算的な問題もあって困難だった事が挙げられるほどだったのだ。
 一方、最近の一般的なパソコン用のCPUは動作クロックが3GHz以上、メモリは8~16ギガバイトで販売価格は10万円程度(!)。
 宇宙技術が枯れたシステムを好むと考えて、10年前(2000年代前半)のパソコンですら、動作クロックは2GHzで搭載メモリは1ギガバイトを超えていたのだから、その差は歴然としている。
 もう比較にならんほど安く小さく高性能になってしまった感じで。

 一方の電池は、知られている限り最も古いものとしては、古くは約2000年前の遺跡から発掘されたバグダット電池が挙げられる。電池として使われていたか、本当に電池なのか、電池として使われていたかは異論がある一方、周囲からは「これ電気メッキしたんじゃね?」って思われるような装飾品などが発掘されている。
 今広く使われている近代的な電池に限っても、1791年にイタリアのルイージ・ガルヴァーニが、ガルバニ電池を発見している。
 二極真空管と比べても100年の差があるのだ。
 電池は既に枯れた技術であり、電子回路に比べると、既存の材料と技術を使う限り、これ以上の小型化は難しい状態になっている。枯れた技術の好まれる宇宙開発においてはなおさら辛い感じで。
 おかげで、電池は(最近その速度はある程度鈍化したとはいえ)日々小型化・高性能化を続ける電子回路に比べて、衛星の中で大きな質量を占める事になってしまう。なもんで、電子回路関係や観測機器関係の人から「お前の所はもっと小さくならんのかー!」的な話をされることも多いのだとか。
 仕方ないとはいえ、難しいところだよなぁと思った次第。
 
 で、またなんかすごいことやってた……。

 水の電気分解と二酸化炭素の供給から連続的にメタンと酸素を生成するほうほうなのだけど……
 投入エネルギーの105%の水素生成ってな……(多分、入力した電気分解用の電力(エネルギー)に対する水素燃焼熱の比だと思うのだけど、びっくりしすぎて詳しく聞くの忘れた)

 なに
 それ

 もはや言葉も無い…毎年毎年スナック感覚でクラークの三法則第三条を達成するんじゃねえ!?(褒め言葉)。



 そんな感じで(その2)に続くのでした。

2015年4月30日木曜日

ふたば学園祭10・参加告知であります

◆ふたば学園祭10参加告知であります
 そんなわけで前回の後進から半年近くが経過してしまいました……Tumblrとかpixivの方もご覧になられている方はお分かりの通り、別にさぼってたわけではないのですが、文章として書くことが無くて、絵ばっかり描いておりました。

 んでもって本題
 来る5月3日(ってもう三日後?!)に、蒲田の大田区産業プラザPioで開催されるふたば学園祭10への参加と、新刊の告知であります。

 サークル名と配置場所は以下のとおりです。

 F-16・「海より深く感謝」

 現状年に一度の自前での即売会参加で、一番気合が入っているわけですが、今回は新刊がなんと二冊であります。
 一冊目は去年の夏コミに上梓した「ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開徘徊記」を超大幅増補(ほぼ書き直しですが)
 色々全部詰め込もうとしたら、多すぎて、ひたすら内容を削りまくってどうにか詰め込んだ一冊

 STARS AND THE EARTH.であります。
 表紙がこんな感じ

 フルカラーカバー(!)付き、新書版で180ページの厚めの本であります。
 内容見本は以下のとおりです。






既に誤字脱字が多数発見されておりますが、どうにかして、簡易的な正誤表を付けたいなぁと。
(2015年5月13日追記)
 ふたば学園祭10にて紙の簡易正誤表を添付しましたが、オンライン正誤表を開設しました。
 随時更新されますので、ご確認頂ければいい感じです。

 で、もう一冊が、こちらは成人向けのマンガですが「こういさんの本・R-18」
 そのまんまのタイトルです。
 表紙はこんなかんじで

おねショタ気味の一冊。B5版28ページで、こちらもカラー表紙となっております。
 描いてる時間の7割はこういさんの髪の毛描いてました……次はもっと単純な髪型にしたい……あとロリこういさん描けなかった……うぎぎぎぎぎ。

 そんなこんなで山盛りでの参加になりそうです。

 もう数日後には開催という切羽詰まった状況ではありますが、この他にも隠し球とか用意しつつ、ご来訪をお待ちしておりまするー

2014年8月20日水曜日

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2014に行ってきた話(その4・終)


 そんなわけで、ヘロヘロになりつつ最後です。
 でも濃いよ!(趣味的濃度が)、熱いよ!!(物理的な意味で)

★めんどくさい人のための斜め読み用リンク★
その1その2その3その4

●大気球
 特別展示のここまでの紹介でも、電波望遠鏡や、マイクロサット搭載機材の動作とか性能確認のための試験、IKAROSのソーラーセイル展開試験、今年じゃないけどエアロシェルの実験などなど、様々な観測や実験で用いられている大気球。通常の気球とは見た目も到達高度も大きく違う「高高度気球」に分類されている。

 日本の大気球は、なんと到達高度の世界最高記録を持っているのだとか。
 ただし、ペイロードが重けりゃそれだけ到達高度も低くなってしまう訳で、最高記録した時の機材はせいぜい数キログラムだったとのこと。この辺りはまあ仕方ないし、数キログラムの機材でも多くのことを知ることが出来るようになってきたのだから、それはそれでいいのかなと。

 さて、それぞれの紹介の部分で説明してきた通り、大気球は大気が非常に薄い宇宙に近い環境が得られる高度にまで機材を持ち上げられるだけでなく、ロケットなどで打ち上げるよりも安価に、打ち上げまでのサイクルを短く出来て、コストが安い。
 ロケットと違って打ち上げ時の振動も少なく搭載する機材の条件は、ロケットを使う場合とは比べ物にならないほど緩い。これはまた、観測機器が打ち上げに伴う問題に見舞われたりすることが少なく、コストが安くできる事にもつながる訳で。
 打ち上げの高度や滞空時間などで似たような位置に観測ロケット(いわゆるイプシロンロケットなどとは別物)と呼ばれるものがあるけど、それとは差別化するための工夫も進んでいたり。
 例えば上空に到達した気球は、地上よりもはるかに強烈な太陽光に照らされ、内部の気圧が上がってしまうために、適度にガスを抜くような仕組みになっているのだけど、これが逆に気球の滞空期間を縮めてしまう原因にもなっている。
 他にも様々な理由があって、例えば、南極や北極の白夜の時期など、極めて限られた条件では40日以上飛翔運用を維持できるけど、日本から打ち上げた場合は、だいたい数時間~一日程度になってしまう。
 そこで、今までの気球よりもはるかに高い圧力に耐えられるスーパープレッシャー気球の研究が進められている。
 で、面白いのが気球が破裂する場合にも、「良い破裂」があるそうで、もっとも良いとされるのが気球全体に満遍なく裂け目が入って割れるのが良いらしい。何でそうなのかはちょっと聞きそびれてしまったり。

 あと、子供が結構居て、大気球のサンプルみたいなのを貰っていたんだけど、自分は結局もらいそびれてしまった。無念。


●観測ロケット
 特別展示とは直接関係ないんだけど、今回の色々でふと思った観測ロケットのことをちょこっと。
 観測ロケットは、基本的に観測機器を軌道上に乗せる必要のない短時間の実験や観測のために使われるロケットで、気象観測とかに使われている(いた?)ロケットと同じ用途のロケットというと分かりやすい感じで。

 観測ロケットがどんな高度まで飛ぶかは、実験や観測で必要とされる観測時間や高度によって様々だけど、大雑把に50から1500km程度。
 今日本で使われている最大の観測ロケットSS-520の場合は、弾道軌道であれば高度1000kmに140kgの観測機器(ペイロード)を打ち上げることが出来る。「そこまで打ち上げられるなら、軌道に乗せるのだってすぐじゃね?!」と思われるかもしれないけど、実際にこれに第三段エンジン(SS-520は二段式)を搭載して地球周回軌道(高度160km程度の低軌道)に乗せる場合、打ち上げ可能な観測機器(ペイロード)は14kgになってしまう。
 高度1000kmまで打ち上げられるロケットが、何故ペイロードを軌道に乗せるとなると突然性能が落ちてしまうのかというと、これはH2Bやイプシロンなどの衛星打ち上げ用ロケットはその燃料の9割が「地球の衛星軌道に乗るための速度を稼ぐために使われている」ため。

 じゃあ何で上に打ち上げられるかというと、上空に行けば空気抵抗の影響が減るので、まず真上方向に飛ぶ。打ち上げの途中でだんだん横になるのは空気抵抗と軌道に乗るための速度を稼ぐのにバランスの良い角度を選んでいるためだったり。
 もう一つ、打ち上げられるロケットが、どこの国のものでも、でもだいたい赤道に向かって、東に向かっていくのは、地球の自転速度を借りて自力で稼ぐ速度を減らせるから。
 高度を稼ぐだけなら実はあんまり苦労はなくて、単段式ロケットでもかなり上空に行ける。
 逆に言えば、真上に飛ぶだけだと、たとえ人工衛星が飛んでいる高度まで飛んだとしても、地球に落ちてしまうのだ(極端な話、静止軌道や月軌道と同じくらいに上空に登ったとしても、地球に落ちてくる)。
 地球に落ち戻らないためには、横に飛ぶ必要がある。という事だったり。
観測ロケットと打ち上げロケットの違い
上に投げてもダメなのだ

 なもんで、例えばSpace Ship Twoに代表される民間の弾道軌道往還機は、通常の衛星軌道打ち上げ用ロケットに比べると、極めて安価に「宇宙旅行」が可能になる。だけど、その一方で上空に登るだけで、そこから軌道に乗るための速度が稼げるわけではないので、行って帰ってくるだけ。無重量が体感できるのはわずか数分~十数分になってしまう。

 話はずれたけど、観測ロケットは気球には不可能な高高度まで到達することが出来たり、無重量状態を衛星軌道への打ち上げよりも安価に実現できたり(時間は限られるけど)と、気球や衛星などと相補的な使われ方をする、もう一つの手段だったり。
 こっちの方の発展も地味に期待しつつ。

●無線送電技術
 最近は非接触型の充電システムとかよく見るようになったけど、無線送電も割と地味に進歩しててる感じで。そんな無線エネルギー伝送技術なのですが、去年と比べてどうこうってわけじゃないんだけど、今年は無線機の電波でミニ四駆を動かすコーナーとか、実際に(吊り下げられた)模型飛行機のモーターを地面を模した下の板からの無線給電で動かすコーナーとかありました。

 色々面白かったけど、子供が多くてあんまよく見れなかった。無念。

 そういや、実機で実験とか出来ないのん?的な事を尋ねたところ「電波法がねー、高出力の電波使うからー、うn」的な回答を得ました。
 ああ……確かに……

●電池の話
 さて今回すごい驚いたのがバッテリ関係の展示(専用のページがなかったらしくて、ペーパーにはこのURLが載っていた)。聞けた話も、内容も盛りだくさん。
 宇宙空間で活動する探査機とかは、太陽電池パネルで得た電力を元にして動いているのだけど、太陽とかとの位置関係で時々太陽電池が発電できなくなったりすることは割とよくあるわけで、その間に観測機とかに必要な電力を供給し続けてくれるのが電池。
 人工衛星/観測機が最後まで機能を全うしていく中で、観測機器の故障以外での「人工衛星/観測機の死因」の六割以上(65%)を占め、堂々のトップとなっているのが実は電源系の障害や劣化だったり(次点は推進剤の減耗など、推進系の問題)。
 行くども死線を切り抜けた、的な表現がされることが多い「はやぶさ」や、軌道上で金星との再会合を待つ「あかつき」も、それ以外の様々な人工衛星/観測機、あるいは国際宇宙ステーションの命運を握っているのは電池と言って良いかも。

 さて、その肝心のバッテリが途中で完全に放電してしまって大変だった「はやぶさ」。その電池の中はというと、一部の電池で、電極に使われていた銅が電解質の中に融けだしてしまって、それが部分的に電池になったり、抵抗になったりして、充電池としての性能は極端に落ちしてしまっていたり(本来の性能の25%も出ない)。
 そうした性能の落ちた電池と、まだ問題の出ていない電池が回路上分けられない直列つなぎ状態で繋がっていて、それで電池の容量の復旧を少しづつしていったのだからその苦労は相当なもの。
 実際「宇宙空間であったからこそ出来た事ですので、ご家庭では決して真似しないで下さい」という方法を取ったのだとか。
「はやぶさ」の電池の復旧など
「はやぶさ」の電池復旧とか「れいめい」の電池とか

 それが功を奏して、無事電池の性能を回復させていったのだけど、そうした無茶が出来たのは「電池の中でどんな化学反応が起きたのか、今どんな状態なのか、これから何が出来るのか」を考えて再現実験で確かめていった技術者の人たちだけでなく、実際に電池を作った会社の職人さんと緊密に連絡して「この電池の構造とかから考えて、どこまでなら無茶できるか」といった相談が詳しく出来たからで、電池の、仕様には現れないギリギリの耐圧や密閉の具合を深く知る職人さんの役割はとても大きかったそうです。

「エンジニアは最後まで物を作れるわけではない(最後の部分は、どうしても実際に材料から物を作り出す、職人さん頼みになる部分は多い)。だからこそ、飛ばされたもの(探査体でも人工衛星でも)、打ち上げた以上、指令を送る以外に二度と手の届かないところに行ってしまうものを、どう把握するか、どう使うか、どこまで(徹底的に)使い倒すかがエンジニアの腕の見せどころ」。と言うのは実にエンジニアだなぁと思った次第。

 で、「はやぶさ」の帰還カプセルなのですが、これもどこに落ちたかを追跡班に教えてくれる電波ビーコン、これもまた電池で動いてるわけで。関係者の方は人事を尽くしてカプセルを地球に戻る軌道に載せたわけですが、計画よりも長く放置された電池が、最後の最後で設計通りきっちり動いてくれるかどうか。
 文字通り祈るような気持ちで見ていたんじゃないかと。
「ちゃんと動かなかったら、帰国した時に石投げられると思え」みたいな話もあったそうです。

 ここまでは観測機用の特別に設計製造された電池の話だったわけですが、こうした特別な電池を使わないで、軌道上に打ち上げられ長期間の運用がなされているのが、小型実験衛星の「れいめい」。
 民生用、つまりは市販のリチウムイオン充電池を積んでいるのだけど、電力管理をキッチリ行うことで、9年もの長期間にわたって衛星を運用し続けることに成功していたり。自分のノートPC、携帯電話やスマフォのバッテリも、そんな長持ちしないだろうなと断言できる長期間。
 電池の状態を把握することで、今の状態でできる事、できない事を判断するノウハウを貯めていっているとのことでした。
燃料電池から水を取り出す方法
無重量空間では燃料電池から出てくる水は問題

 ところで、こうした「子守に手間の掛かる電池」では色々大変だということで、子守に手間のかからない、つまり扱いの容易な様々な電池の開発が進められています。
 その一つに「イオン液体」と呼ばれるものを利用した電池があり、今回はそれが大きく取り上げられていました。これは「ほどよし」(ハローキティの人形がくっついてた、東大の超小型衛星)に搭載されて、現在実際の環境での利用と試験が進められているようです。
 さてこのイオン液体、一体何者かというと「液体の塩」という奴で、塩って塊じゃね?水に溶かさないとダメなんじゃね?って言われそうですが、水に溶かさなくても最初っから液体なのがイオン液体。色々電池にとっては便利なのだとか。
 じゃあ何で便利なのというと

  • イオンなので伝導性が凄い高い(これが低かったら電池にならないから話にならないのだけど)
  • 融点が低い(液体になっている理由は融点が低いので、常温では溶けている)
  • 真空中や高温でも蒸発、揮発しにくく燃えにくい(異常に温度が上がる事態になっても問題が起きにくい)。

 という利点があったり。
 また宇宙空間で使う場合、「塩を水に溶かしている訳ではない、それ自体が液体」で真空中でも揮発蒸発しにくいイオン液体には、別の利点も出てきて、特に今までのリチウムイオン二次電池とかみたいに凄い頑丈な箱に入れてさらにパッキンでガッチリ密閉するとかの必要がそれほど無かったり。極端な話レトルトパウチみたいなパックに入れておけば、宇宙空間でも十分働いてくれるし、安全性も高くなってくれる。頑丈なパッキンが不要になれば、衛星の重さもそれだけ軽く出来るという利点も出てくる。
 色々便利ではある一方、欠点というか解決しなければならない問題もあって

  • イオン液体は、それこそ全部イオンなので、液体中のイオンの動き方が水とかの溶媒に溶けたものに比べて遅い、そのため電池の性能が上がりにくい(イオンが動きにくいので、電子が少しづつしか出てこれない)
  • イオン液体の組成によっては、非可逆反応を起こして充電のできない一次電池になってしまう

 とかまだまだ難しいところもあったり。
 でも先に書いたとおり、今回打ち上げられた「ほどよし」には既に搭載されているし、前に紹介したPROCYONには、より進化したタイプのものが搭載される予定だとか。

 宇宙空間で電池というとまっさきに思い浮かぶのが太陽電池と燃料電池、どちらも最近は過程でも使われるようになっているけど、どっちが先に出来たのかというと実は燃料電池。
 これには、特に宇宙開発の黎明期にはいろいろな逸話があるそうで例えばアポロ宇宙船は、筒型の機械船と円すい形の司令船をくっつけた、限界まで削った色鉛筆みたいな形になっているけど、どこにも太陽電池パネルがないのは、当時はまだ人間の乗った宇宙船に搭載して、十分な電力を供給できる太陽電池パネルが実用化されていなかったため。
 太陽電池自体はアポロ以前に打ち上げられた衛星、例えばヴァンガード衛星に搭載されていて、これは6年にもわたって衛星に電力を供給している。
 逆に太陽電池パネルを搭載しなかったロシア(当時はまだソビエト)のスプートニクは、充電のできない一次電池だけを搭載していたため、寿命は三週間。アメリカ初の火星探査機、ヴァイキングの寿命がわずか一週間だったのも太陽電池パネルが搭載できず、一次電池を搭載していたためだったり。
 また、その後打ち上げられた世界初の宇宙ステーションとも言えるスカイラブには、当時やっと実用化された大型の太陽電池パネルが大急ぎで買い入れて搭載したのだとか。

 さて燃料電池の方だけど、これも色々あって、水素と酸素を反応させるタイプのものは、古くは先に話に出てきたアポロ宇宙船にも搭載されていて、退役したスペースシャトルの電力源として利用されていたり(発電の結果生成された水は国際宇宙ステーションに供給されることも)、最近では電気自動車や家庭用の電源として注目されたり。
 スペースシャトルやアポロ宇宙船で使われていた燃料電池は、アルカリ型と呼ばれるもので、その点をあまり考慮する必要がなかったらしいのですが、実際の発電効率は実はそれほど高くなかったことと、燃料電池本体にパラジウム(最近はあんまり見ないけど歯の治療とかでも使われる金属)を沢山使うんであんまり嬉しくない。そこでJAXAでは、固定電解質型燃料電池と言われるものを開発している。

 ところが宇宙空間では燃料電池にも地上とはちょっと違った工夫が必要で、例えば生成される水。水なんて人間が飲むんだから問題無いじゃんと言われそうだけど、人間が行かないところで燃料電池を使うとなるとそうも行かない。
 しかも無重量状態の中では発電した結果発生した水(水蒸気)が集まって水滴になっても、重力がないから下に落ちてくれない。結果的に燃料電池の中に溜まってしまって、発電のための膜にくっついてしまって、水素ガスや酸素ガスが触れるべき部分を減らしてしまったり、反応できなかったガスが溜まってしまったりして、発電効率が落ちてしまう。
 燃料電池の中に水が貯まるのがともかく問題になってくるのだ。
 そこで考え出されたのが、燃料電池から出てきた未反応ガスに溜まった水を遠心分離器で「脱水」しつつ発電するというもの。「脱水」されたガスは再び燃料電池に戻っていく。こうすることでガスを可能な限り使い切ることが出来て、発電効率も上がる。
 話だけ聞くと洗濯機みたいで冗談みたいだけど、これのお陰で燃料電池から効率よく水を排出することが可能になったそうで、なんとも古い?技術もまだまだ使いドコロがあるし、新しい事ばっかり考えてると上手くいかない部分があるんだなぁと。
 
 んでもって今回一番ぶったまげたのがこれ。
H2-CO2燃料電池
H2-CO2燃料電池

 二酸化炭素と水素で発電しておまけに炭化水素化合物作っちゃう。現時点では、温度条件になどによって様々であるものの、燃料として二酸化炭素と水素を燃料として、電気とエタノール、メタノール、メタンが得られる。

 そな
 れに

 いや本当に。
 二酸化炭素+水素で発電ってなんですか、的な。冗談みたいな本当の話。
 マジで凄い。というかあんまりにも凄すぎて頭空っぽになるレベル。
 これは例えば宇宙ステーションで排出された二酸化炭素が、発電用の燃料として再利用できる事になる(水素は必要だけどこれは、水を電気分解することで得られる、電気は太陽電池パネルでいくらでも)。
 でももっと凄いのが地上での活用。今までは排出されるだけだった二酸化炭素が、これからは工業用原料として利用できる、発電も出来る。水素は、例えば海上に太陽電池パネル並べて海水から真水を生成しつつ電気分解すればいくらでも。
 インパクトがありすぎる。

 例えば、大規模発電に適した燃料電池システム(溶融炭酸塩形燃料電池)の場合、二酸化炭素の排出濃度は排気中の80%に達する。これを新しく開発された二酸化炭素-水素型の燃料電池の燃料として導入すれば、電力が得られる上に二酸化炭素の代わりにエタノールやらメタノールやらメタンやらの化学工業原料が得られることになる。
 そうでなくても、大気中に放出された(すでにある、かつ無料の)二酸化炭素を何らかの方法で回収するだけで、工業原料になってしまうのだ。
 大変すぎる。

 こうした反応は、もともと研究者の間では「理論的には可能である」と指摘されていて、ただ現実問題としてそうした反応を起こすことは(現時点の技術では)困難なんじゃね?と言われていたもの。それを、実験室レベルとはいえ現実的な反応として実現してしまったのもトンデモな事。

 何よりも、今までの燃料電池は「二酸化炭素を排出しない」という点が最も大きな利点として取り上げられていたけど、この反応は「二酸化炭素を排出しないだけでなく、既に排出された二酸化炭素も回収して(それまでと比べると大幅な低コストで)化学工業原材料として利用可能な資源にできる」というのがすごい。
H2-CO2燃料電池の生成物は工業原材料
捨てていたものから工業原材料が作れる、電気も作れる

 現時点での問題は、特に需要が高く、早い段階からの採算が見込めるメタノールだけを特に選択的に生成する方法の確立だとか。
 もうすごい。としか言い様がない。
 話してくれた方も最初に聞いた時に愕然として「これは大変なことですから電話口で話さないでくれ、明日聞きに行って守秘義務契約結ばないと聞きたくない」と言ったほど。
 今はもう学会誌とかで発表されているようだけど、そのインパクトはもう何とも……

 凄い時代になったもんです。

 今回の電池のブースで印象に残ったのは他にも幾つもあるのですが、頭に残ってるのがこれくらいで……本当に大変な発表じゃね?って思う割に地味な展示でいいのかこれ的な。


●んでもって
 だいたい会場内一巡りしたんですが、後で後輩や友人から聞いたり(今回も様々な展示を見るので手一杯で、小講座とかまったく手が回らなかった)した話とかネタとかをちょこちょこ。

 イプシロンやH2Bの打ち上げの際、近隣に住む人には一時的な避難をお願いするというのは今回初めて知ったのだけど、そこでの苦労が意外な感じで面白かったり。
 で、大体二百世帯ある避難対象地域に住んでいる方は協力的で、スムーズに事が進むのだけど、そうは行かないのが農家が飼っている牛の皆様。肉牛を出荷する畜産農家の方が多い影響で、だいたい妊娠した娘さん(牛)がみっしり。
 人間の移動は簡単だけど、牛の移動は産婦人科をまるごと移動させるようなもので、紆余曲折がてんこ盛り。延期しようものなら、二回目の打ち上げとなると、妊婦さん(牛)が不自然なまでに非協力的で、実に大変な事になるのだとか。

 知らなかった、そんなの……

●JAXAランチ
 スペースランチ!!
JAXAスペースピラフ
スペース!!スペース!!

 見本だけど。
 後輩が食べてたのは美味しそうだった。自分はというと、その前に宇宙きなこ(宇宙生物学のところ参照)の揚げパン食ってしまった影響で腹一杯で食べられなくて無念……


●ロケットの色
 μⅤやH2ロケットの赤い部分、これは実はわざわざこう塗り分けてるんじゃなくて、中の液体酸素や水素を外気の熱から守るための「断熱材の色」。発泡しているんで、表面は滑らかでなくて実はふつふつとした感じで凸凹していたり。で、この断熱材、塗られた直後はベージュに近い黄色なんだけど、光に当たるとだんだん赤くなる性質があるのだとか。なもんで、打ち上げが延期されたロケットほど赤くなっていくのだそうです(確かに、JAXA相模原に展示されているμⅤロケット9号機の赤い部分は真っ赤っ赤になっている)。

μⅤロケット9号機
記事とは関係ないけど、展示してあるμⅤは未使用の実物なので配線類がそのまんまになっている

●国際協力宇宙望遠鏡
「みんなで打ち上げるとみんなで使うので取り分が少ない……自前、いいよね……」


●んでもって
 今回の特別展示のいろいろは、これでひとまず終わりなのですが、ほんとうに色々面白くて全部紹介するのはとても無理で……自分も様々なミニ講演についてはすっかりスッポ抜けた(聞きたくても、時間がなさすぎて聞けない……)状態で、見て回れなかった事に残念感溢れるところもあったり。
 ほんとうに興味深かったことの一つに、ある展示ブースで聞いた話が、別のブースでの話に繋がっていたり、あるいは補完されていくところだったんじゃないかと。同じブースでもお話を聞いた方によって専門が違って、同じ衛星でも、観測装置や通信システム、電源などついてのお話を聞けたりとか。
 観測機のターゲットとする「波長」によって、屈折させたり反射させたりの工夫とか、通信もどれだけ短く正確にできるかとか。

 一つの研究開発が、ひとつの研究室で終わらない学際的というか、そんな感じの横断的な何かを感じた次第。
 いやもう本当に楽しかったー
 
当日の最高気温は37℃
デザインが変わって去年より若干疲労度が増していた宇宙飛行士の人
来年も行けたらいいな。

コーヒーまじ美味しい
この一杯が魂を潤す

 んでもって、最初にも書きましたが、今回の特別公開徘徊の記録を同人誌っぽいものにまとめてました。
 これが今回の夏コミの新刊だったのですが、この後、サンクリとかコミティアに持っていく予定です。
 本故にあとからの誤字脱字の修正ができないとか、ページ数の関係で写真が若干足りないとかありますが、気が向いたら委託先サークルの方を覗いてやってくだされー。

 ちなみにこんな本です。