◆ISAS/JAXAの特別公開を見に行ったり(その4)
2013年度のクイックリンク的な(
その1、
その2、
その3、
その4(このページ))
やっとこ最後の方にたどり着き、残るは構造機能試験棟と風洞実験棟。
行く途中でこんなのがあったので写真に撮ったり。
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液化窒素生成施設? |
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液化ヘリウム1リットル2000円也(値上がりしたかな?) |
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メーターは浪漫 |
◆最後の方でまたギッシリ
構造機能試験棟は他の棟同様天井が高いんだけど、大型の実験施設が少ない?ので、開放感がある感じで。
入口付近に休憩所とおみやげコーナーがあり、食べ物とか本が安売りしてたんだけど、手持ちがないので手が出せなかった……
ニュートンのムックとか安売りしてたんだけどなぁ……
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おみやげコーナー(かなり広かったけどその一部) |
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謎の構造物(本当に謎) |
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謎のコンテナ、特別公開中に展示しないものをしまってるのかな |
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謎じゃない天井クレーン |
入場してまず目についたのが巨大な大気球(調査用の大型機球)と一段式再利用型ロケットの試作品。実際のロケットエンジンもだけど、パイプとコードだらけ。
さっそくロケットの方に行ってみたり。
◆届くまでがまた一苦労で
単段式再利用型ロケットは、何故か
通信技術のコーナーに置いてあったり。
共同展示だったのかな?
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ワイヤレスセンサ搭載! |
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ついパイプを目で追ってしまう |
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後ろに大気球がちょっと見える |
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パイプだらけ |
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ちょっと角度を変えたけどやっぱりパイプだらけ |
こうした再利用ロケットは、基本的に重量との戦いになる感じで。ワイヤレスセンサが使われる理由も、センサとプロセッサをつなぐゲーブルが多ければ多いほど重くなり、それだけ軌道に打ち上げるのが困難になってしまう。
そこで、センサとプロセッサを無線LANみたいにワイヤレスで繋ぐことで、こうした重量を節約していこうという感じで。
もっとも、構造材とパイプの数が一番効いてくる気はするので、パイプやタンクそのものを構造材の一部として考えたりする必要が出てくるんだろうなぁと(機体にかかる力を構造材だけじゃなくてパイプやタンクにも受け持たせる)。
下の写真でも触れているけど、カーボンとかの新しい素材を取り入れていくとかも重要なんだろうなぁと。性能試験と打上げ時だけ使えればいいロケットじゃなくて、何回も使う繰り返し利用するタイプのロケットなら、高性能な素材使っても割に合う気はする。
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やっぱり重い燃料タンク |
シャトルもそれが原因で退役したけど、基本的には打ち上げる際のロケットの部分がペイロードよりもかなり重いというのが問題。燃料とか酸化剤とかのプロペラントを除いた重さは、運ぶ荷物の重さより軽い方がいい。
でも軽くしたら、構造が弱くなって、ちょっとした力で壊れてしまったりするかもしれない。
そんな難しいバランスを取りながら、開発していかなきゃならないという。
あと面白かったのが繰り返し利用型ロケットということで、帰還時のタンク内では打上げ時とは全く違った燃料挙動になるんで(軌道上だと推力がないと無重量状態になるけど、帰還時は場合によっては逆Gになったりする)、そうした状況の中でもちゃんとエンジンを作動させることのできる研究もやってました。
現段階ではペイロードとかはともかく、まず単段で宇宙に行くことを目標にしているとのことで、まだまだ先は長そうだけど、楽しみな感じで。
実際に飛行して、着陸している動画もあったのだけど(垂直に数メートル?上昇してちょっと動いて着陸するだけだったけど)、見てる人多くて撮影できなかった…
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ベルチェ素子でガンガン冷やすアンプ |
上の写真ははやぶさからの電波信号を増幅するときとかに使われたアンプらしきもの(説明のボードを撮影し忘れたー!)。ものすごい増幅率高くても、あれほど遠くの、しかも生きてるんだか死んでるんだかよくわからない探査体からの信号をキッチリ捉えるって難しかったんだろうなぁ。ノイズの問題とかあるし。
で、画像のアンプはあんまりに増幅率が高いんで、ベルチェ素子でガンガン冷やさなきゃならない。
で、この写真の左側に実際に使われているベルチェ素子があったんだけど、写真に撮り忘れた……冷却側の表面に、水を流したわけでもないのに空気中の水蒸気が凍りついたらしい1cmくらいの分厚い氷の層ができていて驚いた。
確かに冷えるわ……
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説明撮影し忘れて何の写真なのか分からん |
写真は、8ポート同軸管。説明撮影し忘れて、何の写真やらサッパリなのだけど、調べてみると基本的には高周波帯の(電波とかそういったものの)計測に用いられるもの。
上下(見た目、オスメスの対応する者に見える)二つあるけど、それぞれ8つの同軸ケーブル接続口があるので、8ポートとはそういう意味ではないかと。
導波管なのかなこれ?
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信号だけでなく電力伝送も無線化とか |
上の写真の左側の三角形の謎物体が、先ほどパイプとタンクの塊にしか見えなかった一段式再利用可能ロケットにカバーをかぶせた状態のもの。パネルでは、ワイヤレスセンサの他に、ワイヤレス電力伝送(あとで出てきます)も利用する予定みたいな。
◆プラズマです
次に向かったのが
火星飛行機のコーナー
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未来的な形状が実に火星 |
機体にかかる重力が地球比で30%あるのに対して、得られる揚力は地球比で0.7~1%程度という、そんなファミコンのクソゲーにも負けず劣らずの無理ゲー。、無理難題にも程度ってモンがあるだろという無茶振りに対して、ちゃんと答えを出してくるのが科学者というか技術者というかなんというか。
太陽電池パネルで得られる限られた電力でモーターを回して、如何に揚力を得るかという点も面白かったのだけど、今回の展示でヤケに面白かったひとつがこのコーナーに展示されていた
「プラズマです」な揚力増加システム。
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プラズマならどんな形でも飛べます! |
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プラズマだから大丈夫なのです! |
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全てはプラズマで説明できます!! |
どうしてプラズマ何だかサッパリって感じでしたが、自分の理解できた範囲でざっくりと。
翼というのは、翼の前から後ろに向かって(順方向の)空気が流れていると揚力が出てくる仕組みになってるわけですが(詳しくは揚力とかでググって調べると吉)、翼が空気の流れに対してある一定以上の角度になると、翼から空気の流れが離れて、後ろの方に巻き込んで、これが逆方向の流れになり、揚力を生み出す順方向の流れを失わせてしまうのです。
これがいわゆる失速状態(もちろん他にも失速する原因は色々あります)。
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揚力が失われる理由(のひとつ) |
で、プラズマアクチュエータを利用すると、そこから渦巻きが発生して、翼から離れてしまうはずの空気の流れが、渦を巻きながらも翼に沿って(順方向を保ったままで)流れてくれるので、揚力が失われないという仕組み。
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本当は渦巻きは翼に対して直角の軸で巻いてるんだけど
(分かりにくい) |
ここまで呼んで
「ヴォルテックスジェネレータじゃねえか!!」って思った人は多分正解なんじゃないかと。
でもヴォルテックスジェネレータと違って、必要に応じて乱流を生み出したり、生み出さなかったりできるんで、普通の飛行をしている時に無駄な空気抵抗を生み出さないし、翼端失速とか前縁失速、後端失速といった失速の種類によって、必要に応じたコントロールができるのですごい便利そうな。
あと、スラットやフラップみたいに機械的部品が要らないので故障しにくいし、翼(空力的な)の断面形状をプラズマの調整で変更できるかもしれないという。機体の任意位置に設置できるという利点もあるし。
それに今の飛行機だと、不意に予想外の方向から突風が吹いた時に失速したりして、機体のバランスを失う事があるのだけど、プラズマアクチュエータを利用すれば、失速しそうになった時に気体の任意の部分に能動的に渦流を発生させることで、抵抗を増やしたり減らしたり、あるいは揚力を発生させたりして、機体の制御を取り戻しやすくすることもできるみたいな。車で言えばABSとか横滑り防止装置に相当する働きができそうな。
で、この技術実は既に実証実験に入っているそうで。
例えば発電用風車。発電用の回転翼にこのプラズマアクチュエータを利用することで、発電効率を上げることが出来たとか(詳しくは
このあたり)。
他にもターボジェットファンエンジンのファン部分のブレードに使えば数%の効率向上が望めるらしい。
遠そうで近そうな技術。
こうした技術が火星飛行機に応用されているのかと思うとちょっと面白かったり。
◆発電だけが能じゃない
次に見たのが宇宙太陽光発電システムのコーナー。
宇宙空間に巨大な太陽電池パネルを打ち上げてその電気をラジオ波(要するに電波)に変化して送電しようという計画なのだけど、現況での論理的な限界が6割前後(送電効率が80%、受電効率が80%で0.8×0.8=0.64の64%)なんだとか。
でも巨大な太陽電池パネルでドバっと送電するので、そのあたりはあんまり問題にならないらしい。
電波なんで(電波天文学のところでも触れたように)途中に雲があっても雨が降っていても問題なく受電できるところがポイント。
幾つか実験があったんだけど、気になったのが模型の飛行機を(ケースの上の方から糸でぶら下げてるだけなんだけど)飛ばしているブース。
残念なことに受電素子で電気を送ってモーター回しているとかじゃないんだけど「太陽光発電所からの送電ラジオ波を受信するための素子を使うとこういうこともできるよ」という説明。
でもこれって凄い可能性だらけの技術。
例えば無人機の羽に受電素子を並べて飛ばせば、太陽光発電だけの飛行機だとちょっとつらい電波の中継やらが出来るようになる。
長時間一定地域を自動で飛ばすことができれば、被災地にいち早くやってきて被災状況を探るとか、非常用の携帯電話とかの中継基地にもなるし、地域の渋滞状況やゲリラ豪雨の予測ももっと細かくできるようになりそう。さらに複数機飛ばして連動させれば……
送受信、勝手に動く受信体に対して送電位置をリアルタイムで変化させられるシステムとかも含めて、色々面白そうな技術でありました。
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太陽光発電衛星の技術でこんなこともできる |
◆May The FLOPS Be With You
その次は
JEDI(情報・計算工学)センター。
ロケットエンジンやらロケットそのものやら衛星やらの様々な数値モデルを作って、スーパーコンピュータで実際にはありえない(あったらシャレにならない)状況とか、早々実験できない様々な状況を計算で再現してしまおうというもの。
例えばロケット打ち上げ時の轟音は、打ち上げを見に行った人には圧倒的な迫力を感じさせてくれるけど、打ち上げられる方の衛星から見ればこんなに圧がかかったり振動したりしたら、途中でぶっ壊れちまう可能性が高くなる。できれば無いほうがいい。ロケットにしても音が出る=エネルギー効率が良くない=無駄に燃料を使って費用がかかるって、ことで、音とかは可能な限り抑えられたほうが色々都合がいい。
でも、どうやったら音や振動が抑えられるかを実験して行ったらいくら掛かるわかわからない。
他にも理論だけで「こんな形状の機体良い感じじゃね?」って持ってこられた時、特に極限状況で使われる機体は、実機を作るいはあまりに予算も時間もないとかよくあったり(大気圏再突入用の機体とか)。
全開運転中のロケットエンジンの中でどんな事が起こっているのかも、手を突っ込んで調べてみるってわけにも行かない。
そこでシミュレーションの出番ということになるわけで。
こうした色々な問題をシミュレーションしていくんだけど、最近はやっぱりスパコンの計算能力の壁がシミュレーションの壁になってる感じ。
計算手順とかの工夫(アルゴリズムとか)で最適化出来るところはあるんだろうけど、やっぱ格子点とか多くなればそれだけ演算処理に時間が掛って、自分たちがスパコンを使える時間がゴリゴリ減ることに……
パソコンに限らず、コンピュータの処理能力は日進月歩で向上しているけど、それ故に、スパコンもひたすら買い換えまくらないと最先端の処理とかに追いつけなくなる……とても難しい……
まさにMay The FLOPS Be With You。
演算能力とともにあらんことを……
◆大気球とか
会場に入った時にすぐ目についた巨大なバルーン。写真とか撮らなかったんだけど、大気球という、天文や気象観測のためによく飛ばされる巨大な風船。
大気球実験室というところが、これを使った観測をやってるんだけど、大きなものを外に持ちだして観測しているもんで、なんか実験室っぽくない。
割と頻繁に飛ばされていて、有り難みも感じにくいけど、実際はX線観測機剤を積んで上層大気あたりから天体観測するとか、地味に面白いことをやっているそうで。
最近は、長期間上層大気に滞留できるスーパープレッシャー気球の開発も進んでいるようで……展示にはなかったけど
金星用の気球とか、地球以外用の気球なんてのも作ってるのね……このあたりも展示してくれればよかったのに。
◆ロケットとか
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ロケットと衛星の結合部? |
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フェアリングの模型? |
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ペンシルロケットの模型 |
このあたり講義みたいなのやってたんで、しっかり見たかったんだけど、時間がなかったのと人が多くて見られなかったー
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スペースコロニー、気になるー |
写真のスペースコロニーは
宇宙構造物工学研究室のコーナーに展示してあったパネル。
子供が宇宙折り紙してて近寄れなかった……展示そのものも簡単だったような。
もっとよく見たかったな。
◆最後の大物
最後に向かったのが
風洞実験設備。
風洞実験設備というと、ラングリー研究所のが有名だけど、あれほど巨大で大規模ではないけど(羨ましいけどな!)、ここの風洞実験設備もなかなか。
で、歩いて行ってまっさきに目に入ったのがこれ。
「あ!、バリュートだこれ!?」とか思ってしまった。
聞いてみたらまさしくバリュート、ここでは
エアロシェルと呼んでいるけど(
ここも参照)。
どんなものかというと、減速するために空気抵抗を使うパラシュートみたいなものなのだけど、空気(気体)で膨らませるところが似てるんだか違うんだか。
とにかく大気圏への再突入を行う際に減速するための便利アイテムだったりします。
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直径は50cmくらい?かなり大きい |
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大から小まで色々 |
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すでに何回か飛ばしてるそうで |
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だいたいこんな |
だいたい理解したところだと、エアロシェルは、宇宙空間に居る段階で膨らませることができるため、より遅い速度で大気圏へ再突入する軌道を選ぶことができて、そのために、再突入時の熱を低く抑えることができるとか(エアロシェル自体がデカいので、ふんわり落ちてくる)。だから大げさな耐熱タイルとか熱シールドを使わずに済むという。
既に退役しましたが、スペースシャトルの大気圏再突入時には、最大で1600℃前後の熱に晒された。
もちろんこれは再突入角度とかを調整した上での温度で、実際の再突入にはもっと高くなることもある。スペースデブリを大気圏に落として焼き尽くす時には、逆に高ければ高いほうが綺麗に燃え尽きるだろうし(焼け残りが周囲に被害を及ぼさないほうが重要だけど)。
で、このエアロシェルは、再突入角度とかを調整すれば、重さに比べての空気抵抗が大きくなるために、800℃(ケルビンだったか?)とかかなり低い温度で済むらしい。
800℃違えば、必要な耐熱素材の性能や、断熱材の量も劇的に減るので、その分打ち上げ時の負担も減るという。
もちろん、回収すべき機材や資料に対する熱負担も少なくなるので、その点でもありがたいみたいな。
下の写真二枚は実際の風洞実験で使われた模型。
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風洞実験で使う模型。奥のがミューロケット |
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大気圏再突入体のカプセル模型 |
手前の黒い突起状の怪しげなのは、再突入カプセルの模型。飛行機型のは初期のデザイン?
この青っぽいのが、超音速風洞実験設備、建物の奥の方には遷音速風洞があるらしいのだけど、よく見えなかった。
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超音速風洞実験設備(の、一部) |
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奥の方にも見学コーナーがあった |
はやぶさのカプセルなんかもこの実験施設で色々試したのだとか。
で、偶然、風洞実験の公開に立ち会うことが出来た。
マッハ数は2.0なんで、かなり早い。
グダグダ言うより見てもらったほうが早いのでこんな感じ。動画は一分ほど。30秒辺りから実験が始まります。実験そのものは15秒くらい?
角度が真横っぽくてよくわかりませんでしたが、多分超音速ジェット機の模型。実際はかなり大きな音が出てました。
で、実験を見て、帰りがけに見かけて驚いたのがこれ。
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電磁シールド!! |
大気圏再突入時には、断熱圧縮のお陰ですごい熱が出てくるのだけど、どんだけ熱いかというと空気がプラズマになるほど。熱はすごく嫌だけど、逆にこのプラズマになってくれれば、磁力で制御できるじゃないか!!って方法。
先ほど出てきた太陽風を捉える磁場セイルにすごく似ている。
色々面白い方法があるんだなぁと思った次第。
色々見終わって脳味噌破裂しそうだったのですが、帰りがけに見かけた写真を幾つか。
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近寄ると多分ビリビリする |
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ミューⅤロケット |
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デカいけど発射台はクレーンみたいなの |
これは本来はLUNAR-A打ち上げのための(中抜きとかしてるけど)本物だそうで。
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ミュー3SⅡロケット |
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かっこいいエピソードがあるらしい |
こちらは模型。
全段固体ロケットの宇宙ロケットは珍しいのだそうです。
さて、最後は宇宙飛行士。金曜日の最後に戻ろうとしているときに見かけました。
軽快なステップでしたが中はすごく暑そう……本物なのかなぁ?
布地が薄そうなのでレプリカだとは思うのですが。
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本物なのかな? |
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二日目は見つけられませんでした |
そんなこんなでエラく長くなってしまいましたが。
今回の展示もすごいみっしり感溢れる感じで非常に楽しめた次第。
色々自分の解釈や理解でなんとなく大雑把に紹介しているので、細部の間違いその他はどうかご笑納ください。
実際に展示に関わった方で、「こりゃちょっと」という指摘とかありましたら、コメントしていただくか、適当にメッセージでも投げて頂ければいい感じです。
(右側のフローティングメニューから「中の人の説明」を選び、Google+の基本情報ページから送信することが可能です)
◆終わりー
疲れた……
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疲れきってしまった場合は
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