2013年度のクイックリンク的な(その1、その2、その3(このページ)、その4)
ここまでのあらすじ(orz)
JAXAの特別公開を見て無闇に興奮。その後、炎天下とはいえないものの、見ていて暑い(気温的な意味で)自立探査隊のレースを見終わって、特殊実験棟に入ったら寒かった。
◆小型科学衛星DESTINY
さて、特殊研究棟の入口付近に陣取っていて、なんだか恥ずかしい気がする名前のDESTINY(考えすぎです)。
一体何者かというと、はやぶさで使われたμ10エンジンの口径を二倍に、出力を大幅に向上させた新型イオンエンジンを搭載した小型科学衛星だったり。
説明している人が「イオンエンジンの出力がはやぶさ比で三倍なので、赤く塗って角をつけたい」的なことを言っていて安心する。
古い方(2012年版?)のDESTINYの模型 |
2013年版の模型 |
そこで、太陽電池パネルを僅かばかり曲げておくことで、剛性を高め、ついでに、折りたたんだ時にちょっとだけ小さくなるようにしてあるのだ。
太陽電池パネルは折りたたまれた状態で打ち上げられ、軌道に乗った後、展開されるのだが、この動力源としてはバネが使われ、正しい順番で展開していくように、カムクランクのような単純な機械的な機構が用いられているらしい。
で、このDESTINY、打ち上げられてからイオンエンジンを使って一年半かけてやっとこ月に到達するという気の長い計画なのだが、もともとイオンエンジンはその程度の出力しか無いのだ。
はやぶさに搭載されているμ10エンジンでは1gの重さのものに毎秒1cmの加速を与える程度。三倍といってもたかが知れている。
その一方で、一年半も噴かしっぱなしにして壊れない、かつ燃料切れにならないというエンジンは今のところ無く、この衛星は宇宙空間でイオンエンジンがどれだけ長持ちするかという実証実験という意味合いが強い(実際に衛星に使われる場合は、軌道修正など、出力が小さくても充分な場合か、アポジモーターなどで加速して月もしくは地球スイングバイを行なって、それからイオンエンジンに切り替わるんじゃないかと)。
μ20エンジンに使われるビーム加速用パネル |
カーボン製なんだそうで。カーボンというのは、金属板のようにイオンエンジンみたいにイオンを継続的に照射されても劣化しにくいとか、いろいろな特性がある反面、望んだ形や精度を出すのは非常に面倒くさい素材だそうで、こうした技術を持った会社に製造をお願いしているとのこと。この会社、核融合炉(多分JT-60saとか)の内部ブランケットも作っているそうです。
なんかすげえ。
こちらははやぶさでも用いられたμ10のパネル |
なんで、イオンエンジンのプロペラントが希ガスのキセノン(Xe)なのかという問題。
希ガスだからイオン化しにくいのに、何でまたそんなのを選ぶ必要があったんだろうと以前から疑問に思っていたのだ。
したら、色々丁寧に答えていただけました。
キセノンを利用する理由は
- 希ガスの中でもイオン化しやすい(ラドン(Rn)はもっとイオン化しやすそうだけど、安定同位体が無い)
- 単原子分子なので、イオン化させるときに無駄にエネルギーを使わなくて済む(水素の様な二原子分子だと、まず分子結合を分離しなければならない)
- 原子の中では重い方なので、加速効率がいい(宇宙空間で早く移動したいなら、重いものを早く投げる必要がある)
- タンクに詰めると圧をかけるだけで冷やさなくても液体並みにコンパクトになる(同じ重さのものを宇宙に持って行くなら冷やす手間が要らなくて小さいほうがいい)
ところで、全然関係ない話だけど、一昨年あたりのJAXAの特別公開では、この付近で地球以外に人間が恒久的な基地を作った時には、食料として蚕を飼うという研究があったのを思い出したり。
糸を吐いてさらに蛹を食べられるという便利極まりない食材だということだったのだけど、最近になって昆虫食が注目されているのを見ると、なんとなく先に行っていたんだなぁと思ってしまったり。
宇宙環境試験室に向かう途中。
入ったら巨大化したり特殊能力が得られるんじゃろか。
◆宇宙環境試験室とプラズマロケット
DESTINYの展示を抜けて、特殊研究棟の奥にあるのが宇宙環境試験室。
色々ある宇宙環境実験室の中のひとつで、ここは高真空の中でのプラズマ実験とか行えるらしい。
チャンバの全体みたいな |
全体とかはこっちを見たほうが詳しい |
チャンバの蓋 |
蓋の注意書き |
どんなものかというと、下のパネルの写真二枚を読むとよく分かる感じで。
セイルならプロペラントを積む必要がない |
前に出てきた磁気トルカに似ている |
![]() |
こんな感じだろうか |
地球の磁気圏みたいなのを、自分で作って、太陽風から反発するような形で進むみたいな。磁気圏が大きければ大きいほど帆が広いのと同じなので、磁気の帆を大きくしたり小さくしたりして(しかし見た目はまったく変化なく)効率よく移動することができそう。
太陽電池パネルだと得られる電力は限られてしまうけど、逆に太陽に近い範囲で移動するなら、十分な推力が得られそう。
土曜日にはこの実験を見学できるとの事だったのですが、見に来たら一時間待ちだったので、あきらめた。「ゲッゲッゲッゲッゲ」(CV:釘宮)
この研究室は、これ以外にも無電極プラズマスラスタとか研究してる模様。
例えば、μ20のような従来型プラズマスラスタと異なり、プラズマと加速電極が接触するため、電極が摩滅し、それが寿命になってしまう。加速電極なしにプラズマを生成加速出来れば、スラスタの寿命はプロペラントのみに依存することになるわけで(プロペラントの補給が可能であればずっと加速することも!)。
ほかにも、もっと推力の高いMPDスラスタ(磁場でプラズマ化したプロペラントを噴射して推力を得る)とかも研究してるとか。
色々面白そうなところでしたが、実験見れなくて無念。
◆温めるか冷やすか
そんなわけで、特殊研究棟を抜けて、今度は飛翔体環境試験棟にズルズルと。
たどり着いた宇宙環境試験室は大型恒温槽やら、大型宇宙環境試験施設といった、色々があって、出来た衛星やらを宇宙空間に近い環境にツッコんでみてぶっ壊れるか耐えぬくか、壊れた時にはどう壊れるか調べる施設(ものすごい大雑把)。
みてみると特に温度関係の施設が多いみたいな。そういや、以前来た時には、真空チェンバの中に巨大なライトがあって、それで太陽光線を模した実験してるとか聞いた記憶が。
大型恒温槽の扉が開いたところ |
大型恒温槽の説明 |
大型宇宙環境試験施設(の上) |
で、ここは熱に関係する実験をやっているだけあって、熱に関する研究をしているところが集まっていた。
衛星は機械だし、人間ほどじゃないけど、暑い冷たいにはやっぱり弱くて、寒い所で潤滑油もプロペラントも凍結してしまうし、暑い所で放置すりゃ内部の電子回路が一発で昇天してしまう。
人工衛星とか探査機ってのは、運用するところそれぞれで、受ける熱にすごい差があって、実はそれが衛星の色に反映されていたり。
例えば、金星とか水星といった、地球よりも内側の軌道で主に観測したりする衛星は基本的に銀色(というか鏡ばり)で、どうにかして熱が入らないように工夫している。太陽電池パネルも小さめで、衛星本体を太陽光線から守るために、熱シールド(日傘)を搭載しているものもある。
逆に木星とか地球軌道の外側で主に観測をする探査体は、熱を逃がさないようにするために、断熱材が分厚いのか、真っ黒いのが多い。
よく見る「金色の衛星」というのは、だいたいは地球~火星軌道でウロウロする衛星や探査体だけが持つ色だったりする。
色から見てもすぐ分かるように、それぞれの用途によって工夫があるんだけど、結局は良い感じの温かさを保つため。でもこれが、やっぱりいろいろ難しいらしい。
この温度条件は衛星の部分によって色々変わるらしくて、その値が出てた。
この温度条件は衛星の部分によって色々変わるらしくて、その値が出てた。
部分によってかなり違う |
で、ここではヒートパイプとかの実演をやってたんだけど、子供がたくさんいて触ることも殆どできず効果の程はよく分からなかった……
紹介されている素材や方法はいろいろあったのだけど、目に付いたのをいくつか。
よく見るとはやぶさ |
そこで、表面素材を工夫しようということになって、出てきたのがこの黒い素材。
色々な素材を重ね合わせたりして放熱特性を調整して、低い温度は吐き出し、高い温度は反射するという代物。
黒が実測値、赤い線が計算値 |
別の温度調整用素材 |
今のところ色々研究段階だけど、一部使われている衛星もあって、最初のほうで出てきた、はやぶさの側面の黒い部分が実はその素材なんだとか。そんなに優れているならもっと盛大に使えばいいじゃないかと思うけど、太陽光線の当たり具合とか、素材の実績とかあって、広範囲に使うのはまだ難しいみたいな。
んでもって、説明している人が「アオシマから出たプラモデルの作例とか、他の擬人化でもほとんど再現されて無くて悲しい」とボヤいていた。細かい割にヤケに重要な部分だけど、放熱とかあんまり重視してもらえないもんねえ……
こうした素材とかを使いながらも、日本は他の宇宙機関に比べるとまだ熱関係の研究は追いついていないとのことで、バカスカ数を飛ばして、データを得まくっているNASAとかだと、想定された環境できっちり性能を維持できるコンパクトサイズに衛星をまとめ上げてくるのだとか。
それに比べると日本の衛星は、経年劣化なども含めて(宇宙空間に出れば、素材は劣化して最初の頃の性能は出にくくなるし、機材にも不具合が出て熱がたまりやすくなる)、熱がどれだけ出るか、放熱できるかのデータが十分に得られていないため、同じ性能でも(熱をうまく逃がすために)巨大化しやすいとの事でした。
まだまだ途上なんだねえ……
はやぶさ側面、光ってしまっているが黒いところが新素材 |
で、素材だけで内部の熱を外に出して冷やすんではなくて、窓を開け閉めして、直接熱を逃がす工夫も色いろあるようで、紹介されていたのがサーマルルーバーとかメムスラジエターとか。
サーマルルーバーは、サイズもでかくて分かりやすいのだけど、メムスラジエターの方は、小さすぎて目の前で見てもよくわからないー。静電気力でマイクロメートル単位で加工された小さな窓(アルミフォイルを細かく加工したものにしか見えない)を開け閉めするもの。小さくても窓が開けば、熱は出る(空気で熱を運ぶわけじゃないから、PC筐体みたいにエアフローとか考える必要なし)。
しかも実験してなかったんで、実働してるところを見れなかった。
窓を開け閉めして熱を逃がすラジエター |
恐ろしく小さなラジエターをたくさん並べたもの |
サーマルルーバー(暑かったら窓をあける) |
金色の衛星の外側に貼り付けられているもの |
固定に用いているのはなんと普通のベルクロ |
銀色素材でも固定はベルクロ |
あと、このポリイミドフォームを設計通りのサイズに切ったり縫い止めたりするのは基本的には全て手作業だとか(ミシンは使ってると思うけど)。
なんともアナログな世界だったり。
そういや、火星探査機のオポチュニティ(正式名称がマーズ・エクスプロレーション・ローバーBとかヤケに長い)が着陸時に使ったエアバッグも手作業で作られてたんだなぁと思い出す。
全部手作業…… |
最先端の技術も手作業とか、ちょっとしたアイデアで支えられてるんだなぁと思いつつ暑い。
その4に続くのです。
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