2014年8月20日水曜日

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2014に行ってきた話(その3)


 見学してきた日も暑かったけど、今日も暑いわー
 んなわけで見学した日を思い出しつつその3です。

★めんどくさい人のための斜め読み用リンク★
その1その2その3その4

●マイクロサット
 さて、去年は磁気トルカの話で色々驚いたマイクロサットこちらも参照)(磁気トルカは赤外線望遠鏡「あかり」にも搭載されていて、最後の軌道修正とかに貢献してたそうです)。
 今年はマイクロサットで観測した色々を映像で見ることができました。
 ちなみにマイクロサットで撮影された画像。
マイクロサットで撮影された地球の画像
びっくりするほど鮮明

 画面をカメラで撮影しているので分かりにくいとは思うのですが、「小さい」とバカに出来ない鮮明な画像。これは綺麗。DVDに入って売ってたら買ってたレベル。

 あと、こうしたマイクロサットに搭載するための様々な制御機構や搭載されたシステムやセンサを検証するために、大気球などで上空に送って、そこからパラシュートで降下させつつ様々なシステムの実際の動作とかを調べる実験も行っている模様。
マイクロサット機能テスト用実験装置(1)
これだけ見ると宇宙開発に関係有るように見えない

マイクロサット機能テスト用実験装置(2)
昔、月旅行ってロケット花火があったなぁ

 で、今は「より大きな」マイクロサットを目指して色々研究開発を進めているとのこと。
 大きさや重さに限界があるからそこに出来る限りの工夫を詰め込んで行くんだろうなぁと。
 何となく画面も音もショボかったけどゲームは面白いのも多かった昔のゲーム機みたいな(ひどいのも多かったけど!)。


●ハイブリッドロケット
 ヴァージン・グループとかが開発している宇宙弾道往還機Space Ship Twoのエンジンにも使用されているハイブリッドロケットエンジンの色々。ちなみに、Space Ship Two自体は真ん中のちっちゃいカプセル機で、それをある程度の上空まで持ちあげるのは母機のWhite Night Two。

推進方式による噴射炎の違い
固体、液水、ハイブリッド、電気の各噴射炎
それぞれ特徴的

 ハイブリッドロケットは、固形燃料に液体水素などの酸化剤を噴射して燃焼するタイプのロケットエンジンなのだけど、安かったり作り溜め出来たりと利点のある一方、思うように燃えてくれなかったり、逆に出力をあげようとすると振動したりとまだまだ課題も多い模様。


 そういえば、第二会場の上の方で小型衛星の管制を実演?してくれるというか管制室を見せてくれる感じのコーナーがあったんだけど、時間指定とかあって、断念……2日じゃ足りない……

●中庭の宇宙探査ロボット(ローバー)
 よく見たかったんだけど……暑くて暑くて……写真だけ……
なんでかこれだけ巨大

去年も見た子

赤い非常停止ボタンが印象的な

真ん中の金色の窓のついた黒い箱は赤外線カメラ?ヒートシンクもついてるし
そういや、屋上からパラシュート落すコンテスト?的なのもやってたんだけど、これも暑くてあんまよく見なかった……


●第三会場
●ディスティニー、プロキオン
 去年は「赤くして角をつけて三倍速」のネタが酷かった(褒め言葉)DESTINY

前後が逆です
三倍です
様々な将来のための小型科学衛星ですが、実際は太陽電池パネルの展開くらいで、変形こそしないものの三倍どころの騒ぎじゃないUNICORN並みの新規技術先端技術の詰めっぷりの可能性のKAIJU。なのですが、今回は同じブースでPROCYONと呼ばれる更に小型の50kgサイズ衛星が紹介されてました。
 PROCYONはこじんまりとした感じで、目立ってはいなかったものの、DESTINYよりだいぶ小さい衛星にもかかわらず、「より小さく作れば、より新しい技術を、より安価に、より速く詰め込んで打ち上げられる」という感じで、じんわり進んでいるようです。

 例えば、2014年に打ち上げられた、わずか30kg程度の東大のナノサット(Nano-JASMINE)ですが、1989年に打ち上げられた欧州宇宙機関のヒッパルコス、なんと1トンの重量を誇る堂々たる大型衛星と同等の天文観測性能を持っています。25年で30分の1の小型化を達成できたという事になるのですが、これくらいのサイズであれば、H2Bなどの大型ロケットではなく、中型~小型のイプシロンロケットでも地球軌道上ではなく、遠くの深宇宙を目指すことも可能になってきます。

 またこうした小型観測機を、後の大型観測機の露払いとして先行探査させることで、問題点を炙り出し、全体としてのコストダウンや信頼性向上に役立てることも出来るという利点も。あるいは小さい観測機を連続して送り込むことで、少しづつアップデートされた観測装置で同じ観測目標を立体的に観測する方法も可能になるんじゃないかと。

 一つ一つの衛星をゼロから作るのではなく、共通化されたバスと呼ばれる規格を作り、それに必要に応じたスラスタ、電源、観測装置、通信系などのコンポーネント(PCで言うところのCPUやメモリやグラボなど)を組み合わせることで、開発期間とコストをさらに減らしていこうという方向性で進められているようでした(衛星の共通バスに関しては、大型衛星でも様々なものがあります)。
PROCYONアンテナ類
XHGAが高利得、XLGAが小利得、XMGAが中利得のアンテナ

PROCYONで使用されるパーツ
何のパーツか忘れた(おい)けど、これも町工場製
そんなこんなで展示してあった小さなアンテナ。一辺30~40cmくらいの小さなものですが、これであの「はやぶさ」の高利得アンテナ(一番でっかいパラボラアンテナ)と同等の性能を持っているというスグレモノ。脇の小さな丸いものは低利得アンテナですがこれなんかは、ちょっと大きめのコマ的なサイズ。
 そういえば、あの「はやぶさ」も、打ち上げはもう10年以上前の2003年。機材の開発はそれ以前だったんですよねえ……それを言ったらスペースシャトルとかは、50年代の発想を60年代に設計して70年代の技術の粋を集めて完成させたものなのですが(ただしそれを補修改修を交えつつ30年間も使い倒したNASAはすごい)。

 一つの探査機の打ち上げに準備期間から考えて十年近く掛かってしまう現状を考えると、こうした小型衛星で技術の新陳代謝と実証のサイクルを早めるのはすごい重要なんじゃないかと。
 また特にこうした小型衛星の観測装置は、大手メーカーではなく下町の町工場で開発されているのだそうです。やっぱり小さい会社だとフットワークも軽い感じで。


●スペースサイエンスチェンバー
 んなわけで、去年は磁気セイルやら、大気圏再突入時の断熱圧縮によるプラズマを磁気で「押し返す」という驚きの技術を紹介していたスペースサイエンスチェンバー。今年は人工オーロラが見えるということで期待して行ったら故障中でした。
故障でお休み
オオゥ...

 無念。

 今回は、真空チェンバ『スペースサイエンスチェンバー)内で問題が発生したのは分かっているのですが、その修理のためにチェンバーを開いてしまうと、再度オーロラを発生させることが出来る程の高真空に減圧するのにほぼ一日掛かるため、今回は展示不能になってしまったということでした。
 あれだけの大きなチェンバを減圧するのはやっぱり大変なんですねえ……
スペースサイエンスチェンバ内部(1)
扉側の窓からチェンバ内を見る

スペースサイエンスチェンバ覗き窓

スペースサイエンスチェンバ内部(2)
上のCの窓から中を見る
そういえば、展示の説明を見ていたら、スペースサイエンスチェンバーで行われる実験の一つに電離層の再現とかがあって(確かにオーロラも電離層で見られる現象の一つ)、電離層の変動がGPSなどの測位システムの誤差の原因の一つになっているのだそうです。


●第四会場
●温めたり冷やしたり
 去年も衛星の熱に関して色々やっていた宇宙環境試験室。今年も熱に関する色々が。
 ヒートパイプやら何やらは去年も展示されていたのだけど、今回はループヒートパイプが紹介されてたり。
 これは要するに冷媒がグルグル回ってる感じのエアコンや冷蔵庫みたいな感じのシステムなのだけど、必要に応じて冷媒を温めることで「どれだけ冷やすか」の制御ができるようになっているところがポイント。宇宙だと普段使いのPCと違って、単なるヒートパイプでは「冷えすぎる」可能性もあるため、別にヒーターとか積まなきゃならない場合もあったり。で、ヒートパイプでの冷却を制御することで、必要な時に必要なだけの冷却ができるようになるのだとか。
 このループヒートパイプは様々な温度に対応できる上に、細かい温度調整が可能だということで、衛星の熱制御に貢献できるんじゃないかと(ヒートパイプ自体は、NASAが人工衛星の冷却に使ったのが初めて)。
 他にもくし形?のヒートパイプとか、色々あって、これも温度調整可能とか単純な仕組みでも色々あるんだなぁと思った次第。

 で、個人的に面白かったのが断熱材の話。これも去年出てたんだけど今年はもう少し詳しく聞けた。
 去年は、人工衛星の断熱材はベルクロで貼ってあったりとかの話が聞けたのだけど、今年は断熱材そのものの話が多かった。人工衛星や観測機に使われる断熱材で一番重要なのは、あたりまえだけど外部の熱を遮断すること。これは普段使ってる冷蔵庫と同じ。なもんで、実は人工衛星の断熱材も、冷蔵庫の断熱材も「熱を伝えないようにする空間を作る」という基本的な構造は同じ。
 最近の高級冷蔵庫で一部使われ始めてる真空断熱材とかがあるけど、宇宙の場合はそもそもほぼ真空なので、断熱材の気密に関してはほとんど気にする必要はなかったり。ただし、断熱材の表側と裏側の素材が接触していたら、そこから熱が伝わってしまうので、どうやってここに隙間を開けるかが一番の工夫のしどころ。
「あかつき」断熱材
中のアルミ箔スペーサーに凸凹(エンボス加工)を付けたタイプ

 今までは、断熱材のスペーサーとして樹脂製のメッシュを挟んでいたのだけど、これだと耐熱温度が120℃まで。使えないわけじゃないけど、使えるところが限られていた。そこで今度はアルミの薄い材料に直接凹凸をつけて(エンボス加工して)みたのだけど、これだと結局触れたところから熱が伝わってしまう事になって、効果が無いわけじゃないけど、充分じゃなかった。
 そこで開発したのは熱伝導性が低くて、耐熱温度が高い樹脂、ポリイミドを発泡スチロールみたいに膨らませたもの(写真は去年のレポートに載ってます)、ポリイミドフォームを使ってみることにしたのだとか。これが結構具合よくて、かなり良い結果を出しているとの事。実際の衛星にはまだ使われていなみたいだけど、これから期待のできる断熱材見たいな感じで。
 IKAROSのところでも出てきたポリイミド。色々なところで使われてるんだなぁと。


 第四会場では、もう一つの展示エリアで、小惑星イトカワから回収された砂粒を顕微鏡で見るイベントがあったのですが、小講座をまったく見て回れなかったのと同様、時間的体力的な問題で、こちらも見送らざるを得ませんでした……


●第五会場
構造機能試験棟
何処もデカいけど、一番デカい

 さて、生協とかの売店もあって、見通しがよくて天井の高い第五会場。今まで気が付かなかったけど、μ-Ⅴロケットのフェアリングの展開試験の写真とかが飾ってあったり(写真撮り忘れた!)と意外なところが面白い第五会場。今回は、風洞実験棟が公開されていなかったためにここがラスト。
 でも今回ここが一番面白かったり。
 さて詳しくじんわりと。
 
●JEDI(数値演算によるシミュレーション)
 JEDIは去年も紹介した数値演算シミュレーションで、大規模になりすぎたり、条件が厳しすぎたりして実験することが難しい色々をコンピュータによる計算で再現して確かめていこうというところ。
 去年も説明したけど、ロケットの轟音はそれだけでロケットエンジンの効率の低さを表すものだし、その轟音やら振動はロケットそのものや載せている衛星(ペイロード)にダメージを与えかねない。そんな訳で、ロケットエンジンの効率化や騒音振動からロネットあるいは衛星を守る必要があるのだけど、いちいちロケットを打ち上げて確かめていたのでは時間もお金も幾らあっても足りない。
 そこで数値演算シミュレーションが役に立つわけだけど、ロケットの音は、主にロケット本体と空気の摩擦によるマッハ波と、ロケットエンジンからの噴煙の地面との衝突から生まれている。特に発射直後の振動はロケットの大敵。
ロケットの振動は衛星にもロケットにもつらい
影響を減らすための発射台の形状変更

 ところが、μⅤロケットの頃までは、この発射時の振動と騒音を計算する方法は、40年ほど前(アポロの時代!)にNASAから発表された方法をそのまま使ってたのだけど、。当然その頃はまだ騒音や振動がどのように発生するのか、今ほど詳しいことは分かっていなかったため「大体のところのこんな感じ」というレベルでの計算しかできなかったのだとか。当時は最新鋭のコンピュータも今の電卓程度に毛が生えた態度の性能しかなくて、多くは人力計算機に頼っていたことを考えると仕方ないのだけど。
 こうしたことから、後から数値演算シミュレーションで調べてみたところ、ロケットや衛星に逆にダメージを与えてしまっていたと後から気がつくことも少なく無いとのこと。
 数値演算シミュレーションによる成果の一番わかり易いところの一つが、ロケット発射場の特に射点の真下、ロケットの噴射をどう逃すかの構造。μⅤロケットの頃の、上に屋根のない滑らかな構造と、イプシロンロケットの噴煙を誘導する洞というか焼物の窯のような構造の差が見た目にも分かりやすいんじゃないかと。

 この構造のお陰でイプシロンロケットは発射時の騒音振動をかなり抑えることが出来ているとの事。ただ、実際のところ、同じロケットを打ち上げた時に、騒音がどんだけ減ってるかは聞きそびれてしまった。

 数値演算シミュレーションは、もちろん射点の構造の懐石だけに使われているわけじゃなくて、ロケット全体の性能や、大気圏を突破するまで衛星を守るフェアリングの構造、ロケットエンジンの内部の燃焼とかにも色々使われているのだけど、ここで問題になるのは計算の方法。
 数値演算シミュレーションには、必ずやらなければならない事がある。それは数値計算のために、それぞれの部分のブロック分け。ロケットのための計算ならロケットとその周囲の空気まで全てをブロック分けしておく必要がある。この分けられたブロックのひとつひとつのことを構造格子と呼ぶのだけど、この構造格子の一つ一つについて、それが何なのか(素材など)と、それにどういう力が掛かるかを計算して、その結果を周囲のブロックに反映させ、それを時間単位ごとに必要な時間分だけ計算していくのが数値演算シミュレーション。もちろん、ものすごい計算能力が必要になる。
 たしかに昔に比べればコンピュータの計算能力はあがったけど、ロケット全体とかの詳しい挙動を調べるとなると、さすがに時間がかかりすぎる。そこで出てくるのが構造格子をいかに効率よく置くかという事。構造格子は計算する単位だから、数が多ければそれだけ詳しく正確な計算ができるけど、その一方で計算に必要な時間はものすごい勢いで増えていく。減らしたら計算時間は減るけど、逆に正確さが失われてしまって、シミュレーションする意味がなくなってしまう。
 そうした難しいバランスが求められる構造格子なのだけど、今のところ、全体を分割する方法には、マルチブロック格子と非構造格子のという2つの方法がある。マルチブロックの方はとにかく立方体(直方体)に分割していく方法、非構造格子は立方体じゃない(放射状だったり、とにかく立方体か直方体ではない形に)形に分割していく方法。
 これにはそれぞれ利点があるのだけど、こうした構造格子をどう分割していくのかは、今まで人間が決めていたので非常に大変な手間だったり。そこでこの構造格子自体をスーパーコンピュータに自動的偽性させて、計算制度を上げつつ手間を減らす研究が進んでいるんだそうです。

 これ以外にもロケットエンジンの内部でどの様な燃焼が起こっているのかとかのシミュレーションとか(前に書いたハイブリッドロケットもこの中に含まれてるみたい)、後で触れる再使用ロケットについても研究のためのシミュレーションが進められている感じで。

●再使用ロケット
 去年は実機がカットモデルじゃないけどカバーを外した状態でしっかり展示されていた再使用ロケット、今年は宇宙博の方に展示されているとの事で、カバーというか外装のみの展示(中身はこっち)。
再使用ロケット、カバー
中身は空っぽだった

どうぞ撮影して下さい
子供に大人気

再利用ロケット用無線LANシステム
去年も書いたけど、ケーブルを減らすための無線LANシステム
宇宙通信コーナーの方にあったのだけど

 もっとも子どもたちにはそっちの方が分かりやすかったのか、去年よりも多くの子が写真撮ってたりしてました。

 今年面白かったのが、再突入の方法の見直し的な展示。
 前回までは垂直に発進したロケットは、軌道上に登った後、再び尾部から大気圏に突入して戻ってくる様な肝心だったのですが、今回は再突入時には頭から突っ込んで、ある程度高度を落とした後で(おそらくは大気の断熱圧縮が起きないほどに減速した後で)尾部を地上に向ける方法に変わったこと。
 これには、先に紹介したJEDIでの数値演算シミュレーションの結果が反映されているみたいで、主にエンジンを保護するために、この方法をとったほうが良いとわかったそうです。去年紹介した電磁石で大気の断熱圧縮熱を回避する方法とか色々組み合わせていく事になるのかな?
 これからまだまだエンジンや再突入の方法とかが変わってくるんだろうけど、毎年見ていると少しづつ進化してるんだなと。

●宇宙通信
 再使用ロケット内の無線システムとか、あるいは人工衛星との通信とか色々あるのだけど、詳しく聞くには力尽きてしまっていた宇宙通信コーナー……

 はやぶさから送信されてきたデータを受信したものをほぼ生の状態で人間の耳に聞こえる波長に変えたものを聞かせてもらったんだけど、デジタルデータのはずがすっかり丸まってしまっていて、か細い囁きみたいでした。
 あと、受け取った電波を増幅するアンプがメッチャ巨大で熱い。
ガリウム素子で冷却する1kw級パワーアンプ
観測機から届いた信号を増幅するアンプ
熱い


●火星飛行機
 去年は火星飛行機というよりは、プラズマアクチュエータの事をメインに書いていたのだけど、今年もそんな感じで。

 何で火星で飛行機なの、と言われたら「速く動けるから」というのが多分一番分かりやすい答え。
 今現在も幾つもの火星探査機が火星の地上や軌道上から、様々な観測をしているけど、地上じゃ時間がかかりすぎるし、軌道からじゃ細かいところが良くわからない。なもんで、飛んでいったほうが速いという発想。

 ところで火星を飛ぶのがどんだけ大変かというと、これがまたすごい大変。そもそも火星は地球の1%くらいの大気しかない訳で(地球だと成層圏の真ん中辺り、高度15~20km付近に相当する薄さ)、もし火星が地球と同じ重力(1G)だとすると、同じ重さを浮かせるために必要な翼の面積は大雑把に100倍は必要になってくる。もちろん翼そのものの重さを持つのだからそんなに簡単にできるもんじゃない。けど、火星の重力は地球の1/3。なので必要な揚力もこの1/3になって、だいたい地球の33倍の翼を持つことができればどうにか飛べるんじゃないかと、理屈ではそう言える。

 だけど、そんな簡単に行くわけない!ってまさにその通りで、例えば推進力を得るためのプロペラも大気が薄いために大きくする必要があるし、そもそもプロペラを回すための動力をどうするんだって話になってくる。もしジェットエンジンを持っていったとしても、火星の大気には酸素がないから使えない。さらにモーターで飛ぶとしても、地球より太陽から離れた火星の軌道では、同じ面積の太陽電池パネルを持って行っても、地球で得られる半分程度の電力しか得られない。おまけに滅多矢鱈に寒いため、肝心のバッテリやモーターの性能が大きく下がる可能性があるというナイナイ尽くしの状況で、とどめは送った電波が相手に届くまでには片道7分から最大44分かかるという、リアルタイムな通信がほぼ不可能という距離の問題。これも公転のタイミングで、火星と地球が間に太陽を挟むような位置になると完全に通信不可能になってしまう。

 そのため、火星飛行機は降下から飛行に至るまで、火星の飛行機は地球からの連絡を待つことなく、自律判断で飛ばなければならない……(このあたりは火星探査機全般に言える話なんだけど、飛行機だからより、リアルタイム性が高くて複雑な判断が求められる)

 無茶ぶりにも程があるけど、それでも色々研究は進んでいるようで、後で詳しく触れるプラズマアクチュエータもこうした研究の中で生まれた技術の一つであることを考えると、思われている事から様々なものが生まれていくんだなぁと。
 
火星飛行機
プロペラの形が凄い特徴的
さて、今回も見てきたプラズマアクチュエータ。重複になる部分が多そうなので、とりあえずは去年の書いた色々と撮ってきたのを見ていただければいい感じで(こっちこっちも参照)。


(プラズマアクチュエータが稼働する動画。15秒あたりで稼働し始めるが、翼に対する煙の挙動が変わる)

 今回は実際に動作しているところを見せてくれるコーナーもあって、手作り感溢れる実験装置にも関わらず(気流を作るための吸気用ポンプが掃除機で、整流板がストローの塊だったのは、すっごい納得できる)、実際に自分の目で翼の周囲での煙の挙動が変化していく様子を見られてすごい驚いた次第。
 これはやっぱすごい技術じゃないかと。
 
プラズマアクチュエータ実験装置
動画の実演装置、真ん中の黒いのが翼
貼ってある銅色のがプラズマアクチュエータ

プラズマアクチュエータ稼動状態
翼の上面の紫色がプラズマアクチュエータ稼働状態での放電

プラズマアクチュエータだけ
プラズマアクチュエータだけ、超薄い
プラズマアクチュエータは、既に一部で実用化され始めているようだけど、今回見てきて面白かったのは、「実際にこういう挙動をする」という事は分かっていてもそれに対しての理論付けがまだまだ遅れていることと、試行錯誤の途中という印象が強かったこと。

プラズマアクチュエータの問題点
プラズマアクチュエータの問題点

 「プラズマアクチュエータが有効だ」ということは分かっていても、どうやれば最も効率的になるのかは実はまだ理論化されていなかったり。翼のどの位置にプラズマアクチュエータを装着すればよいのか、どれくらいの電圧を掛けてやればいいのかや、その周波数、さらにはどのタイミングで電圧をかけるのか(連続してかけ続ければ良いのか、パルス的にインターバルを挟むと良いのか)などなど。現段階では、様々な実験を繰り返している状態。

 まだまだ面白そうなことになりそうな技術なのです。


 んでもって「その4」へ続く!

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