2015年10月9日金曜日

奥さん、ニュートリノです

◆奥さん、ニュートリノです
 今年のノーベル物理学賞で、ニュートリノに質量があるという発見での受賞ということで、色々ネタを考えていたのだけど、そもそもニュートリノって何よって事になったので。色々説明しようかと考えたけど、自分の頭じゃ割とつらいと分かったので、分かる範囲で絵にしてみたり。

 いろいろ細かいけどじわりと読んでみてくだされ。


◆ニュートリノを大量に浴びると?
 超新星からの大量のニュートリノの放出とその観測が、先のノーベル賞受賞の原因ともなったのですが、このニュートリノというやつはそうした超新星の爆発や太陽内部の核融合だけでなく、原爆や原子炉からも大量に放出されている。
(ただし、超新星から放出されるニュートリノはやはりケタ違いで、爆発のタイプにもよるが10の49乗~10の53乗エルグ…だいたい10載~10極ジュール…典型的なガンマ線バーストと同等のエネルギーがニュートリノによって持ち去られているらしい)

 さて、このニュートリノ、電磁波ではないので、大量に浴びて焼けるわけでもなし、質量はほぼないので引っ張られるわけでもなし、強い相互作用を受けるわけでもなし……ただ、弱い力(相互作用)だけを受けることになる。

 ならこの弱い力(相互作用)が、目に見えるほどの形で人間に影響をおよぼすとどうなるかというと……弱い相互作用は、核融合や核分裂を担う重要な力。つまり人間の体を構成する細胞、その細胞を構成する原子そのものが核融合や分裂を起こすこととなり……量によっては爆発して消えてなくなります。
 ただでさえほぼ影響を及ぼさないニュートリノ。それをどんだけ浴びればそれだけの影響を受けるかは定かではありませんが……(おそらくは超新星からエネルギーを持ち去るニュートリノ全部をいっぺんに全身に浴びるくらいの量が必要になりそうですが)

◆捕まらないけど跳ね返せる
 どこまでも影響を与えず通り過ぎるだけのニュートリノですが、極超低温の超電導金属に衝突すると、あっさり反射するという特性もあったりします(詳しくはこの辺りで)。これを利用すれば、より高い観測精度や、あるいは解像度を持つ、ニュートリノ天文台とかの建築もできるようになるのかもですよ。

◆んでもって
 ニュートリノはここまで説明してきたとおり、核融合や核分裂によって発生するわけで、そこでこんな話も出で来るようです。
 これは、今回のノーベル物理学賞受賞理由となったニュートリノ質量の研究の、その一端を担ったK2K実験でも活躍したカムランドから発表された論文の一つです。


 今までのニュートリノ観測は、良くも悪くも地球にある数多のニュートリノ源という騒音の中で、微かな天の囁きを聞くような苦労でなされていたのものなんだなぁと。

 さて、今回も素人の理解で描いたものなので、そっちこっち間違ってるやもしれませぬ。
 色々ありますが、どうかご容赦のほど……

Windows Backupの話

◆WindowsBackUpの話
 今を去ること三年とちょっと前、新しいマシンをSSDに換装してからずーーーーと頭を悩ませることになっていた、WindowsBackupが正常に働かない問題。こことかここに、その辺の経緯がツラツラと書いてあるのだけど、先日(とは言え一ヶ月前ですが)、やっとこ正常にバックアップできる方法を発見したので、その辺りを書いてみようかと。

 で、自分の環境での原因はRAMドライブとWindowsの環境変数でした。

 自分の環境では、SSDを使ってて既に割と早いのですが、RAMディスクならもっと快適なんじゃないかということで、RAMドライブソフト(DataramのRAMDisk)を利用していたり。
 RAMドライブは、ブラウザや他のアプリのテンポラリファイルとして使うように設定。かなり快適なのですが、それはここでは置いておいて、このRAMドライブのドライブレターがデフォルトで「R:」となっています。Windowsのドライブは何の変哲もない「C:」ドライブ。

 さて、半年に一度くらい発作的にどうやってかバックアップ出来ないか色々設定を変えてたりして、結構前に「ドライブのシステムイメージを含めない設定、つまりマイドキュメントとかユーザーライブラリだけをバックアップすると成功する」ことに気が付いた。

 もちろんこの状態では一番必要になるシステムのバックアップが出来ないという欠点はあるのだけど、それでも全部のデータが根こそぎなくなるよりは、とこの設定で運用していた。

 んでもって、半年ぶりくらいにWindowsBackupの設定をいろいろ見返していて、「バックアップの設定」画面を開いてふと気がついた。

赤線部分に、RAMドライブ(R:)が混ざっている
……そういや、なんでシステムイメージに、RAMドライブ(R:)が混ざってるのん?
 本来ここはWindowsがインストールされたドライブ(この場合はCドライブ)だけが表示されているはず。
 なんでこんな設定になってるんだろうと思って思い返してみたら、そういえば、様々なアプリの一時ファイルとか展開するためのフォルダとしてRAMドライブを指定していたのを思い出す。

 ここでふと気がつく。VSSだのSPPだのがズッ転けてたのはこれが原因なんじゃ?

 つまりはRAMドライブを導入して(単に導入しただけでは問題は起きない)、システムのテンポラリをRAMドライブ側に置いてからVSSとSPPがコケて、そこからWindowsBackupがコケたという予想。

 そこで試してみる。
 システムの一時ファイルの場所は環境変数を書き換えることで指定できる。
 それを元の値に書き戻してみる。
 環境変数は、書き換えたら再起動する必要があるのでまず再起動。
 んでもって、WindowsBackupの設定を一旦デフォルト状態(バックアップ先以外は全て自動選択)にしてバックアップ開始……


 BackUpできた。
 今までの苦労は何だったんだ、ってくらいあっさり。

 んでもって、自分の環境での原因と対策がわかったので、まとめて見る感じで。



★状況:
 WindowsBackupを実行しようとするとBackupが正常に完了しない
 詳細情報を見ると「シャドウコピーが作成できない」というメッセージが出てくる。





★今回の自分の環境における原因: 
 RAMドライブを導入した際、システム環境変数and/orユーザー環境変数を書き換え、一時ファイルをRAMドライブ側(R:ドライブ)に設定した。
 WindowsBackupは何らかの原因でRAMドライブをドライブとして認識することが出来ないと思われる。そのため、WindowsBackupはシステムのシャドーコピーを作成できず、エラーが発生する。

★対策:
 WindowsBackupを実行する時に、システム環境変数を元の値に書き戻し、一度再起動することでWindowsBackupは正常に動作するようになる。
 書き戻した環境変数は、バックアップ終了後にまたRAMドライブへのパスを指定すれば良い。



●んなわけで
 今回の作業を順番に(ここまでの説明が分かる方には蛇足かもしれないけど)。

(1)確認の方法
 まずはWindowsBackupのバックアップ元ドライブの確認。

・「コントロールパネル」から「バックアップと回復」を開く



・「(盾)設定の変更(C)」をクリック。



・「次へ」をクリック



・「バックアップの対象」で「自分で選択する」を選ぶ→「次へ」



・赤線部「次のドライブのシステムイメージを含める(S):」に、システムドライブ(C:)以外が含まれていないか確かめる。システムドライブ(画像ではCドライブ)以外が含まれていた場合、WindowsBackupは失敗する可能性が高い

 次に環境変数のチェック。
・「コンピュータ」を開く


・メニューバー(ファイル(F) 編集(E)…)の下にある「システムのプロパティ」をクリック



・「(盾)システムの詳細設定」をクリック



・「環境変数(N)」をクリック



・「ユーザー環境変数」の「TEMP」または「TMP」を指定、「編集(E)」ボタンを押して修正する。




・この部分の元の(デフォルト)値は

%USERPROFILE%\AppData\Local\TEMP

 これ以外の値になっている場合、WindowsBackupは失敗する可能性が高い(TEMPがデフォルト値以外の場合はほぼ確実に失敗する。TMPだけがデフォルト値以外の場合は、成功する場合も多
いけど、両方直しておいたほうがいい)。

 環境変数の直し方はこの「ユーザー変数の編集」ダイアログの「変数値(V):」に、上にある元の値を入れて「OK」をクリック。ダイアログを閉じて、再起動してやれば良い。

 ところで、自分はユーザー環境変数のみを書き換えてたのだけど、人によっては、システム環境変数側も書き換えている可能性がある(そしてそのことをよく忘れている……)
 なもんでシステム環境変数の「TMP」の値も確かめてみるのが吉
 システム環境変数のTMPのデフォルトの値は

%SystemRoot%\TEMP
 
 になっています。


※注意!
 環境変数に%USERPROFILE%とか%SystemoRoot%とか入ってないんですけど!?
 という方も多いかもしれませんが、これはWindows側が勝手に「ああ、これはこういう意味だよね」って解釈してくれるキーワード(特殊フォルダ)です
 %USERPROFILE%は、Windows内部で「システムドライブ\Users\(ユーザー名)\…」と解釈されます(例えば、C:\Users\バンテリン\…)。

 同様に
 %SystemRoot%も、Windows内部で「システムドライブ…」と解釈されます(例えば、C:\Windows\…)


 さて、再起動後は、上に述べた手順で再び「バックアップと復元」コンパネを開き、今度はバックアップ対象を自動選択にする。


 これで「次へ(N)」を選んで「バックアップ設定の確認」で「設定を保存して終了(S)」。
 その後、「(盾)今すぐバックアップ(B)」でバックアップ開始となる。

 正常にバックアップできてしまえばしめたもの、後は環境変数を今説明してきた方法で元の値(RAMドライブなど)に戻して再起動すれば作業終了。
 バックアップしたい時に環境変数を書き換えるのは多少面倒ですが、高速性とバックアップのある心理的な安心感が両立できると考えれば、それほど手間じゃないのではないかと。

 しかしWindows10が出ても、このあたり多分解決されていないんだろうなぁ……対処としては大したことないように思えるのだけど……ううむ、ううむ


●他にもありそうな原因
 さて、ここまでは自分の環境での原因と対処方法を説明してきたのですが、似たような状況でWindowsBackupが動作しなくなる理由として、レジストリの方が悪さをしている場合もあるようです。

 これはここまで説明してきた環境変数ではなく、レジストリ側にテンポラリとなるフォルダが指定されていて、それがシステムドライブ以外のドライブを示している、という状況のようです。

 レジストリによる問題に関してはここでは対処などは説明しませんが、やはりシステムドライブ以外に指定されているテンポラリをシステムドライブに戻すことが基本的な対処になるんじゃないかと。
 あとは自前で調べてGO!

 ここまでの色々が解決の手助けになればいい感じで。

2015年8月23日日曜日

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2015に行ってきた話(その3/3・終)

◆んなわけで
 その2からの続きです。
 今回写真イラスト少なめで本当に無念……

★移動がめんどくさい人のための斜め読みリンク★
 その1その2その3

●軌道太陽光発電システム
 静止軌道上に巨大な太陽電池パネルを広げ、そこから発電した電気を地上に送信しようという、軌道太陽光発電システム。今年は文科省と一緒に電力の送信実験をやったはずなのですが、その話聞きそびれたー!!!(今年は、こんなんばっかりだ)
 でも聞けて面白かった話題がひとつ。
 宇宙空間で太陽電池パネルを実際に展開すると、太陽電池側と、発電した電力をマイクロ波にして送る送電パネル側でやっぱり温度差が生じてくる。すると太陽電池パネル全体が少しづつ歪み、結果、マイクロは送電パネルが歪んで送電効率が落ちてしまう。
 今までは、この歪みを修正・調整するためと太陽電池パネルの展開のために、写真みたいな構造と普通のモータを使うことが考えられていた。



 ところが、これだとやっぱり重い。モーターそのもの部品も多いし、チェックが大変になる上に壊れたら修理が面倒くさい。
 そこで今回紹介されていたのがカーボンナノチューブを利用した「人工筋肉」(CNTアクチュエータ)。



 見ため黒いテープでしか無いのだけど、これが電気を流すとギュンギュン曲がる。
 面白い。
 内部に電解液が入っているため、真空中での利用や、太陽光線に晒された時の問題など、まだまだ考えなければならない部分は多いようだけど、なんといっても構造が単純で部品数が少なく、何より軽い。
 もちろんこのCNTアクチュエータ、太陽電池パネルの展開と修正・調整だけに使うのは勿体ないということで、どんどん研究を進めていくとのこと。
 軌道太陽光発電システムから生まれた「人工筋肉」。

 研究の不思議さを思い知らされたり。


●電波天文学
 さて、いつ行っても何か面白い、個人的には興味が深い電波天文学。
 今回の特別公開では、以前から気になっていた疑問が幾つか氷解したり。

 衛星に搭載されるものにかぎらず、様々な観測装置や検出器は、だいたい冷却に対して非常に気を使っている。
 この前の本でも紹介した赤外線天文衛星「あかり」は、観測装置冷却のために、X線天文衛星「ASTRO-H」もマイクロカロリメーターのために液化ヘリウムを搭載し、「あかり」はその蒸発を押さえるために冷凍機すら積んでいたり。
 衛星じゃなくても、地上で使われる赤外線カメラなどは、センサの冷却のために割と大きめのヒートシンクやら何やらが付いている。液化窒素や液化ヘリウムで冷やすことも多い。
 電波天文学でも同様に観測装置に巨大な冷却装置がついていたり、新しく開発された観測装置はマイナス260℃で冷やして性能を大幅に向上させたものもある。
 じゃあそもそも何で冷やすの、ってのが疑問になってくる。
 そこで重要になってくるのが温度。

 電波天文学や赤外線天文学といった分野では、観測目標となる星やガスは、基本的にメチャクチャ冷たい。
 光学望遠鏡で観測できる天体は、光学の名前の通り、可視光線を出して光っている。その表面温度はおおよそ数千℃から数十万℃程度。一方の赤外線天文衛星の場合、狙う天体の温度はだいたい1000℃から氷点下数百℃。電波天文学で扱われる宇宙マイクロ波背景放射に至ってはわずか3ケルビン(だいたいマイナス270℃)しかない。
 こんなに冷たいものの僅かな温度差を観測するとなると、一番問題になってくるのが観測装置自体が持つ熱。
 観測対象よりも熱いもので冷たいものを見ると、観測されたデータが観測装置自身が出す熱などの「ノイズ」のためにかき消されて、何がノイズなのかデータなのかさっぱりわからなくなってしまう。



 なもんで、まず自分自身が出すノイズを抑えるためにガッツリ冷やして、データをちゃんと取れるようにすることがまず重要になってくるのだ。

 じゃあ先に出てきた「ASTRO―H」は、X線天文衛星なのに、なんでヘリウムで冷やすの?、X線源ってブラックホールの降着円盤だったり、超新星だったりするんでしょ?って疑問が出てくる。
 これにもちゃんと理由がある。「ASTRO―H」のマイクロカロリメーターは、「たった一つのX線(あるいはγ線)粒子」が観測機器に衝突した時の温度差を検出する。確かにX線は宇宙にある超高温の場所からやって来るけど、一つ一つのX線の光子で見ると、それほど高いエネルギーを持っているわけではなく、観測機器に衝突した時の温度差は本当に微々たるもの(逆に光子一つでそれだけの温度差が生まれるというのがすごいのだけど)。その僅かな、本当に微かな温度差を検出するには、やはり観測機器は極低温と言われるほどに冷やしておく必要があるのだ。
 ダイナミックな天体活動の中に潜む僅かな変化を検出するためには、ダイナミックに冷やす必要があるのかと改めて驚いた次第。
 で、こうした観測機器は常温だと動かないのかなと思って聞いてみたら…
「ちゃんと動きます。でもノイズがひどくて、観測に使えるレベルじゃなくなっちゃいます」
 なるほどなー

 さてもう一つ謎だったのが、電波望遠鏡で撮影されたとされる様々な画像の謎。
 電波望遠鏡で撮影された画像は、光学望遠鏡で撮影された画像に比べれば解像度は低いけど、ちゃんと一枚の画像になっている。
 ところが電波望遠鏡をよく見ると、光学望遠鏡でよく見られるCCDのような部分がない。もうちょっと正確に言うと「CCDの用に、無数の点で同時にデータを得られるような構造にはなっていない。
 それなのにどうやってあんな画像が撮れるのかな?と思って聞いてみた。したら

「あれは観測範囲全体をスキャンして画像を得ています」

 なんと……
 言うなれば、目標の星空を一本の針で削っていく感覚。
 波長の問題もあるのだろうけど、光学望遠鏡がある意味シャッター一つで空の一角の画像を得られるのに対して、電波望遠鏡は画素の数だけパラボラを左右に振って少しづつ画像を描いているのだ。
 で、もう一つ不思議に思っていたことがある。前の本でも述べたとおり、天文現象はたしかに人間スケールでは変化はほぼ無いけど機材の微妙な変化や観測条件の変化で、得られたデータをただ重ねていくだけでは(コマ撮りのアニメーションを撮影するとライトが明滅してしまったりするように)うまくいかない部分が出てくるはず。
 その辺りはどうやって調整しているのかと思ったら、天文台は光学でも電波でもそれ以外でも、ちゃんとキャリブレーションを行っているのだとか。
 人力キャリブレーションとか、感と経験がモノを言う部分もあるのだけど、面白かったのが星を基準にする方法。
 まず常に同じ光を発しているとか、常に同じ周期で光や電波)の明滅を繰り返すとか、特徴のある星をいくつも探しておく(これは国際的に取り決められた星もあるみたい)。
 観測を始める前に、まずその星を観測して観測機器を調整し、実際の観測を行うのだ。
 なるほど、変光星とかの天体はそのほとんどは(人間スケールで見れば)ほぼ同じ周期で同じ変化をしてくれる。それを基準にすれば、望遠鏡の観測精度が保てる。
 面白い方法だなぁと思った次第。

 あと、今回ちょろっと聞いて驚いたのが、前回の本で説明したスペースVLBI。日本では「はるか」がその役を担っていたけど、今はそうした計画はない。海外でも似たようなもので、例えばNASAはハッブル宇宙望遠鏡の後継であるジェイムス・ウェップ宇宙望遠鏡などの光学望遠鏡に注力しているため、スペースVLBIを行っている所は無いと持っていた。
 したら、ありました。
 ロシアの宇宙電波望遠鏡「ラジオアストロン」が二〇一一年に打ち上げられ、スペースVLBIの一部として現在も運用されていました。
 びっくり。


●ハイブリッドロケット
 さて去年の本でも触れたハイブリッドロケット。今回はもうちょっと詳しいお話が聞けたのでじんわり説明していこうかと。
 説明がある程度重複してしまうけど、そのあたりはご勘弁を。
 まずはハイブリッドロケットって何よって感じなのだけど、これは燃料が固体で、酸化剤が液体だったり気体だったりするタイプのロケットエンジン。
 液体燃料ロケットの代表がH2シリーズ、固体ロケットの代表がイプシロンだとしたら、その中間に当たるロケットと言っていいかも。
 で、ハイブリッドロケットがどんな利点があるのかというと、燃料が固体なんで、扱いが楽だということ。作ったら作りっぱで放置しておいて、打ち上げが決まったらパッと用意できる。固体ロケットとしての長所を持っているのだ。だが液体燃料ロケットではこうは行かない。燃料の製造や保存に気を使わなければならないし、打ち上げの直前までロケットとは別にしておいて、打ち上げ時に注入する必要があるし、打ち上げ中止ともなれば、今度は抜き取る必要がある。そりゃもう大騒ぎ。
 次にありがたいのが、燃料(推薬)が火薬じゃないこと。イプシロンに代表される固体ロケットは、その燃料の中に酸化剤が入っているので、一旦火がついたら勝手に燃え進んでしまう。保存中も爆発などの事故の可能性を常に考える必要がある。ハイブリッドロケットはそもそも燃料(推薬)に酸化剤が入っていないので、消そうと思うなら酸素を遮断してやればいい。
 また酸化剤の流量を変えれば、推力制御もできるし、必要とあれば途中でカットオフ(燃焼中止)もできる。



 液体燃料ロケットと固体燃料ロケットの長所を集めたみたいな感じだけど、短所が無いわけじゃない。というか、固体や液体ロケットと比べると実に微妙な感じ。
 一番大変なのが酸化剤の調整。一回火が付いたら後は勝手に燃え進んでくれる固体燃料ロケットや、酸化剤と燃料を細かく調整することが出来る液体ロケットと違って、ハイブリッドロケットは燃料と酸化剤がどう触れてどう燃焼していくのかまだハッキリとは分かっていない。
 何で分からないのってことなのだけど、推薬と酸化剤が触れる部分の形状(表面状態)が、常に変化し続けていて、予測がすごい難しいのだ。
 酸化剤と燃料の比率は一定であるのが一番嬉しいけど、ハイブリッドロケットはまだ研究の途上であるのも手伝って、中々そうも行かない。燃焼の具合によっては、振動が起こって、エンジン内の推薬が砕けて、予想外の燃焼が起こってしまうかもしれない。そうでなくても、推力制御などで酸化剤を減らすと、その比率が大きく変わってしまう。
 うまく使えれば便利になることは分かっていても、うまく使う方法を模索している状態と言っていいかも。

 でもこうした中でも少しづつ研究が進んでいるようで、最近では観測ロケットに用いてみようとか、観測ロケット級のハイブリッドロケットをクラスタ化、多段化して低コストな超小型衛星の打ち上げシステムを構築していこう計画が進んでいる模様。
 燃焼の問題とか根深そうなところもあるのだけど、興味深いのは相変わらず。ぜひとも上手いこと進んで欲しいところだったり。
 

●小さな体に大きな苦労
 さて、最近日本だけでなく様々な国で活発化している小型衛星の研究開発。
 軽量低価格そして打ち上げまでのスパンの短縮を武器に、小さな体に色々な技術と工夫を詰め込んだマイクロサットは様々な利用と応用が考えられているのですが、小さいからといって苦労も小さくなってくれるかというと全然別。小さなボディにはは溢れんばかりの夢がつまり、うんざりするような苦労が溢れだしていたりします。

・送るに送れぬ多量のデータ
 こうした苦労の中で最近特に注目…というか頭を抱えさせているのが、電力問題と衛星からのデータの送信。
 小型衛星が多機能化、高機能化するに連れて使う電気も増えているのだけど、太陽電池パネルのは、その大きさ(1辺の長さ)が半分になると発電能力が1/4になってしまう(!)。
 電力が十分使えないというのは、衛星にとっては致命的な問題。
 電池の所でも話したとおり、電力がなければ必要な装置は動かせないし、観測した結果を地上に送ることすらできない。
 でも電力不足に関しては、搭載機器の小型化や省電力化が進んでいる今はどうにかやりくりできている状態。
 一方でそうは行かないのが衛星からのデータ送信。省電力化だといって地上にデータを送るときの送信出力を下げる訳にはいかない。
 大電力がれば、ドバっと送ることもできるけど、小型衛星だとそういうわけにも行かない。
 例えば重さ2.1トン、太陽電池の大きさが16.5メートルもある「だいち2号」は、堂々たるアンテナを備え、大出力で送信できるため、地上に800Mbpsでデータを送信(ダウンリンク)することが出来る。しかもデータ中継衛星「こだま」に中継してもらうことも出来る。
 ところが、重さ100キロ程度の小型衛星はそうはいかない。使える電力は限られ、アンテナは小さい。データ送信に使うアンプもちんまり。おかげで、ダウンリンクはせいぜい数十Mbpsくらい。速度差はおよそ20~40倍にもなる。これは遅い。
 でも観測機器などは比較的新しいものを搭載することが出来るため、観測精度は向上し、送るべきデータはどんどん膨大になってきている。
 どうすりゃいいものか。
 というわけでまず考えだされたのが送信波を効率よく増幅して、かつ歪みのすくない小型パワーアンプ。でも根本的に電力が少ない以上、パワーアンプで電波を増幅することで増やすことの出来るデータ送信量はそれほど多くない。
 じゃあどうするか、考えだされたのがスマフォなどの通信で使われるデジタル変調で「電波の一波長分の中に沢山のデータを詰める方法」を利用すること……なにそれ?
 詳しく説明すると、ものすごい面倒くさいので簡単に説明してみる。
 普通、電波にデータを載せる、ということを考える時、下の図みたいな感じで搬送波と呼ばれる電波にデータを振幅に載せて送る方法が頭に浮かぶんじゃないかと。




 ところがそれだと一つの波長の中で送れるデータは1ビットくらいになってしまう。
 そこで搬送波の周波数は変えずに(衛星との通信に使うことが出来る周波数帯域は国際条約で決まっているので、それ以外の周波数が使えない)、搬送波一波長分の並で送られてきた電波を調べてその振幅と「電波がどの位相から始まっているか」を探す。その情報から元々決めておいた表に従って「これはどのデータが送られてきたのか」を探して。一度にたくさんのデータを受け取るのだ。
 幸い、コンピュータの処理能力が高速化したおかげで、衛星から送られてきた電波が「搬送波の周波数で考えるとどの当たりの位相から始まっているか」や「信号の振幅」をちゃんと調べられるようになっている。そもそも、このデジタル変調の方法は、スマートフォンや公衆Wi-Fiなどで高速通信を行うために既に実用化されているのだ(1波長に8ビット分のデータを載せるところまでは実現している)。
 このデジタル変調を使うことで、小型衛星で使うことの出来る少ない電力で高速データ通信を実現しようと言う感じ。
 宇宙ではまだ制約が多いのか、一波長に4ビット分のデータを載せるところまでしか実証実験できていない。けどこれでも348Mbpsという速度が出る。これがどれくらいの速度かと言うと、前回の本でも紹介した「よどほし3号(ハローキティ搭載型)」の約35倍。ダウンリンクの速度が上がると、より細かい観測データが送れるようになる。そうなると、より高度な観測装置を積むことが出来るようになってくる。
 小型衛星で可能な実用分野や実験が増えてくるわけで、速ければ速いほどいい……これからさらにデータ密度を上げて、500Mbpsのダウンリンクが可能可能になるように研究を進めているとのことでした。



・使えるものは裏でも使え
 先に説明したとおり、小型人工衛星の性能が向上するにつれて、各種機材やデータ送信に必要な電力が不足し気味になっている。電力不足なら太陽電池パネルたくさん広げるか貼るかすればいいじゃん、ってことになりそうだけど、重さやら何やらがあって、中々思うようには行かない。折りたたんでいったとしても、広げるときの方法や広げた後の固定があるし、慣性とかの問題でマニューバに手間がかかるとかもある。
 そこで、思いついた方法の一つが「最初っから絶対に必要な部分の使ってないところの利用」。
 小型科学衛星の中でレーダーなど電波を使った実験を行う場合は、電波の送受信を行うためのアンテナが必要になる。アンテナの大きさは直接解像度(観測精度)につながるため、できるだけ広い方がいい。で、大きな(平面の)アンテナを広げることになるのだけど、その裏側は基本的に使われていない。そこに太陽電池パネルを貼ってしまおうというもの。
 もちろん、太陽電池パネルをアンテナの裏に貼ると、太陽電池パネルとアンテナの使い分けが必要になる。
 アンテナを使っている間は、太陽電池パネルを理想的な方向に向けるわけにも行かず、逆に太陽電池パネルを使っている間はアンテナとして利用することはできない。姿勢制御マニューバや、電力をうまくためて使うためにバッテリのことも考えなきゃならない。
 けど、今まで使っていなかった部分の有効活用は、大きさと重さが肝になる小型衛星にとってはとても重要になってくるんじゃないかと。

 小型化から生まれる様々な問題とその解決のための試行錯誤は見ていて楽しく興味深い感じ。もちろんこれは部外者だからそう思うのであって、実際に研究してる側としては数多を抱える毎日なんだろうなぁと。
 マイクロサットも、どんどんおもしろくなってきているんじゃないかと。
 
●アンテナ違い
 前回の本で「はやぶさ2」「だいち2」、そして「あかつき」に搭載されているアンテナはフェイズドアレイアンテナと書いてしまったのだけど、後から色々調べてみたら大間違いだったことに気がついてしまった。
 「はやぶさ2」と「あかつき」に搭載されているアンテナはフェイズドアレイアンテナではなく、ラディアルフィードスロットアレイアンテナ、と呼ばれるもの。長いね。
 ナンじゃそりゃと思われるかもしれないけど、説明するのがとてもめんどい(またか)。
 構造的には、円形のものも、四角いものも基本的には同じで2つの細長い穴が直角に傾いたT字型になっているものが1セットになっていて(フィード)、それがズラっと並んでいる(アレイ)。このT時に並んだ穴の形状は、扱う周波数によって自動的に決まり、穴の位置も式で表すことが出来る。その一方で、穴の位置は正確じゃないと困るので、コンピュータ制御の工作機械で厳密に仕上げられていたり。T字型のフィードの角度を変えると偏波の方向や角度も変えられるらしい。
 これが円環状に配置されているものはラディアル(円環)フィードスロットアレイに、直線上に並んでいる物がライン(直線)フィードスロットアレイとなる感じ。
 さて、アンテナにパラボラ型のものを使わない理由はいくつかある。
 パラボラ型アンテナを使う場合に、一番の問題になるのが、打ち上げ時の体積。巨大な傘を広げたまんまでは収まりが悪い。かといって、打ち上げ後に展開するような形だと、正常に展開できなかったら他の機材が正常でも役に立たなくなってしまうし、展開した後で必要な精度を出すための苦労が大変。
 もう一つの問題は熱。
 パラボラ型のアンテナは、扱いやすくて性能が高い一方で、電波以外も焦点に集めてしまうのだ。
 一番厄介なのが可視光線や赤外線。地球軌道でもかなりの熱になるけど、「あかつき」が活躍する金星軌道あたりだと、もう大変。パラボラに集まってきた光は、副鏡や焦点にある通信機材や観測装置にダメージを与えてしまうのだ。 
 そこでフィードアレイアンテナの出番となってくる。電波のような波長の長い電磁波に対してはパラボラ同様に焦点に綺麗に集まってくれる(もしくは指向性を持って発振してくれる)一方、光のような波長の短い電波に対しては平面でしか無い(◆図必要)。
 これは…ありがたい。

 他にもヘリカルアンテナとかあったのですが、こちらの方はページが増えすぎて紹介を断念……また機会があれば……

 きっちり調べたつもりでも大ポカのミスをしてしまって、前の本を買っていただいた方には申し訳ない反面、間違いを指摘していただいたついでに、新しい色々を聞けたりして全くありがたいやら恥ずかしいやら。
 アンテナもまた深いんだなぁと思った次第。

●んでもって
 なんとかかんとか終わったのですが……
 こ、今回もギリギリになってしまいました……おまけに今回は(も?)積み残し多すぎる……火星パラフォイルの話とか、再使用ロケットとか、熱の話とか、「はやぶさ」が回収してきた塵(ダスト)の解析のお話とか、「IKAROS」関係のいろいろとか、「DESTINY」とか「PROCYON」とか火星飛行機とか「ASTRO-H」とか!

 でも時間ががががが……次に何とかできたら……どうにか……

 どうかお楽しみ頂けたら良い感じで。



 また来年も行くぞー

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2015に行ってきた話(その2/3)

・その1からの続き~
 暑い

★移動がめんどくさい人のための斜め読みリンク★
 その1その2その3


●太陽電池パネルの話
 前の本の電池の話でも出てきたとおり、宇宙に出た人工衛星や探査体は電気で動く。
 もちろん軌道や姿勢を制御するために、燃料は積んでいるけれど、コンピュータや観測機器は、エンジンからシャフトでつながっていて回せば動くというシロモノじゃない。動かすためには電気がどうしても必要になる。 
 そのため人工衛星や探査隊には必ず電力源を積んでいる……当たり前すぎるけど、これがまた大問題。
 原子力電池などを用いる外惑星深宇宙探査体などを除けば太陽電池パネルは、人工衛星や探査隊にとって文字通りの生命線となる最重要部品の一つ。性能はもちろん、絶対に動いてくれないと困るというか、可能な限りの最高の動作しなければならないという使命がある。
 なのにこの太陽電池パネルというのは、ほとんどはまっ黒か深い藍一色で、故障してるのか不良品なのか、見た目じゃさっぱりわからない。
 さらに実際に光を当てて所定の電力が発生できたからといって、広い太陽電池パネルのすべての部分が問題なく動いているかというと、そうじゃないかもしれない。ものすごく検査しにくい。探査体や人工衛星に用いるとき、製造段階での良品不良品の検査が難しい、あるいは故障の有無がわからないのは非常に厄介な欠点なのだ。

 こうした欠点をもつ太陽電池パネルの検査に使われる方法として、「太陽電池に光ってもらう」という方法がある。
 光るのかよ!?と突っ込みを入れたくなるが、太陽電池パネルは、基本的は構造としては通電させると光るLEDをだだっ広くしたようなもの。通電させれば光るという性質があるのだ(パネルのタイプなど依るので全ての太陽電池パネルが必ず光るわけではない。要注意)。 
 で、実際の画像がこれ。

本の方では色潰れでわからないものに……

 写真に写っている黒い板の右側の二枚が、通電させて光っている太陽電池パネル。その二枚の内、左側の一枚の下の部分が光っていないが分かるだろうか。
 これは太陽電池パネルが故障して、全体に電流が流れないため、光らず真っ黒いままだったり。
 なるほど、これなら正常に動作しているかどうかは目でわかる。同じ電流を流して、パネル全体が均一に光ってくれれば故障していない、というのが目で見てすぐ分かる。
 なんとも便利な予想の斜め上の方法。知っている方には当たり前の話かもしれないのだけど、知らないとびっくりだよなぁ……ビックリした。



●宇宙素子は頑張っている
 さて、人工衛星で使われる様々な電子回路には、いつも使っている家電製品の中に入っているものと同じ民生品から、研究室の中で数個だけ作られたほぼワンオフのものまで、様々なものが用いられている。これれは予算の高い低いや、その素子に求められる様々な性能や条件によって何がどう使われるか決まるのだけど、実際の宇宙空間で使われる電子回路には、地上で使われるものとどんな違いがあるのだろう?
 これは実は回路としては、ほぼ変わりなかったり。コンピュータは命令に従って様々な判断や制御を行うし、太陽電池パネルは発電を、バッテリやコンデンサは充電をする。地上のものとの違いなんか全然ない。
 じゃあ何が違うのというと、使われる環境。当たり前と言われればそれまでだけど、宇宙空間には空気はない。引力もほぼ無い。その一方でこれでもかというほどの放射線が飛び交っている。
 まとめてみると次のようになるだろう。

・空気がない(極端に薄い)
 以前の本の熱関係の部分でも言及したけど、空気がないので、放熱が非常に厄介な問題になってくる。内部で発生する熱は、ヒートパイプなどで運べるにしても最終的には放射だけでしかできない。
 なもんで、このあたりきっちり設計しておかないと、部品が焼け焦げるとか割と多いのだとか。特にトランジスタや抵抗など、発熱しやすい部分は身長に設計する必要がある。
 また、空気が無いため温度は地上ほど安定していない。太陽光を浴びれば極端に熱くなるし(だいたい150℃)、日陰に入れば凍りつくほどに冷たい(マイナス100℃)。表面ほどではないにせよ、衛星内部でも昼と夜とで90℃ほどの温度差が出てくる。さらに昼側に居ても、影になる部分と日の当たる部分の温度差は大きい。
 これが、地球集会に合わせてだいたい90分に一回にやってくる。45分毎に昼と夜がやってくるのだ。となると使われている様々な部品が暖められたり冷やされたりする。これは材料にとっては大変な負荷になる。

・空気がないので色々蒸発する
 プラスチックやゴムといった材料は、その素材の中に可塑剤と呼ばれるものが含まれている事が多いのだけど、真空中ではこれが蒸発(揮発)してしまって「アウトガス」と呼ばれる厄介者になってくれる。どんな風に厄介かというと、色々面倒なんだけど、特に困るのが鏡やレンズといった光学部品にひっついてしまった時。地上でチリひとつどころか、細菌ほどの大きさの汚れも許さないほど磨き上げられたレンズや鏡を、丁寧に汚していってくれるのだ。こうしたアウトガスがくっついて問題になることを「コンタミネーション」と呼ぶ(生鮮食料品の加工で問題になってくるアレと同じ)。他にも、アウトガスが出てしまう事によって、プラスチックやゴムなどの材料そのものの性質が変化してしまうという問題もある。

 じゃあ可塑剤の入った素材を使わなきゃいいじゃんということになるのだけど、世の中そんなにうまくいかないもので、プラスチックやゴムはやっぱり便利な素材特性を持っている。
 そこでまず大切になってくるのが材料の選定。
 本当にそこにプラスチックやゴムを使うべきかどうか、使わなくていいところには、セラミックなどの他の素材を使うなどして回避し、本当に使うべきところに限ってはしっかり使うというメリハリを付けた利用をまず考えなきゃならない。
 また、発生してしまったアウトガスで機材などが影響を受けないように、ガスの出る部分と影響を受ける部分を最初から分離するというのも、衛星を設計していく中で重要なポイントになってくる。
 次は、実際に宇宙空間に出た時。かならずアウトガスが出てしまうのなら、最初から問題にならないように出してしまえという方法。衛星全体を温めて積極的にアウトガスを蒸発させ、衛星内から追い出すのだ。これは「ベーキング」と呼ばれて、直訳すれば「オーブンで焼く」という意味。「はやぶさ」や「はやぶさ2」でも、探査体内のガスを追い出すために行われている。
 ただしこの「ベーキング」という単語、衛星内のガスを追い出すという意味の他に、外惑星軌道などにいる極端な低温環境にある探査体を、動作可能範囲の温度まで温める保温作業に対しても使われるから要注意。また宇宙開発以外の分野でも使われることもある。
 
 この真空での揮発という問題は、コンタミ以外にも、回路に使われる電子部品の選び方にも影響を及ぼしてくる。
 一番めんどくさいのが、電解コンデンサが使えないという点。電解コンデンサは「電解」の名の通り、中に電解液が入っている。去年の本の電池の話で言及したように、真空中だとこの電解コンデンサが沸騰して揮発してしまい、使いものにならないのだ。動力に用いるような大きなバッテリなどであれば、厳密に密封した上で使えないこともないけど、様々な素子を組み合わせる電子回路の中で使えない。最近では、積層セラミックコンデンサなど、電解液を使わないで高性能なコンデンサも出てきてはいるのだけど、使用される温度環境で大きく性能が変わってしまったり、電圧の掛け方によっては容量が変化してしまったりして(特に高級オーディオ用としては殆ど使われない理由の一つ)、簡単に置き換えが出来るわけじゃない。場合によっては回路を最初から設計しなおさなければならない事もあったりして、とても難しかったり。

・重さがないのは大問題
 人工衛星や探査体はあたりまえだけど、宇宙を飛んでいる。宇宙を飛べるということは、重力がない……訳じゃないのだけど、事実上無重量状態と考えていい感じ。
 となると、衛星や探査体だけじゃなくて色々なものが飛べるということ。
 何が飛ぶかというとゴミが飛ぶ。
 すごい困る。
 人工衛星の製造時の写真を見たことがある人は少なく無いと思うのだけど、その写真でよくみんなしてクリーンルームの中で白い割烹着みたいなのを着て、帽子とマスクをかぶり、靴下のお化けみたいなのを履いてウロウロしているのは、体や服から出るゴミを何が何でも避けたいが為。
 もし万が一、衛星や探査体の中にゴミが入ったり、衛星の中でゴミが発生してしまうと大騒ぎになる。
 衛星や探査体の中は、宇宙に出てしまえばもちろんほぼ無重量。それまで「下」に落ちていたゴミがフワフワと浮いてくる。どこに触れるかわからない。すごい困る。
 様々な姿勢制御の時もまた困る。どこにすっ飛んでいくかわからない。可動部分の間に挟まるかもしれないし、どこかの電気系に挟まってショートするかもしれない。燃料系に引っかかったら……

 そんなわけで、ゴミが中に入る事は絶対に避けたいし、打ち上げ時の衝撃で衛星内部にゴミが出てしまうことも避けたい。もしゴミが衛星の中で出てしまっても、それがどこかに触れて問題が起きるのも避けたい。
 そこでまず行われるのが、コーティング。衛星内部を全部コーティングしてしまうことで、衝撃を受けても中にゴミが飛び散らないようにするのだ。このコーティングにはまた、衛星内部の温度を均一にするという役目も持っていたり。
 衛星に使われている部品そのものからゴミを出ないようにする試験もまた行われている。これはPIDN試験と呼ばれるもので、チップや回路に色々な振動や衝撃を与えて、「カラカラ」と音がするかを聞いて、内部にゴミがあるか、あるいは発生したかを確かめるもの。この試験にパスすれば、打ち上げ時の衝撃などで衛星内にゴミが出ない、または出ても影響が少ない可能性が高い、という事になったり。

・余計なものもあるわけで
 ここまで述べてきたように、宇宙空間には空気と重力が無く、これらが予想もしなかった問題を引き起こす事になるのだけど、逆に地上にはほとんど無くて、宇宙に行ったら豊富すぎて困るものもある。
 それは、宇宙線。宇宙「船」じゃなくて宇宙「線」。
 地球では分厚い大気層やら磁場に遮られて地上にはほとんど届かないのだけど、宇宙空間には大気がないから宇宙線は飛び放題。衛星や探査体に直接ガンガンとぶつかって来てくれる。
 じゃあ実際には宇宙にはどんな放射線があって、どんな風に影響が出てくるのか、というのを見てみよう。

 そもその宇宙線って何よ、って言うことになるのだけど、宇宙を飛び交う放射線のこと。
 放射線だったら、人間はともかく機械には影響ないんじゃないの?って思われるかもしれないけど、そんなことは全然ない。放射線に対しては、場合によっては機械は人間より脆かったりする。
 さてその宇宙線、大雑把に分けて3つある。
 一つ目は銀河宇宙線。なんだか鉄道路線みたいだけど、宇宙空間を飛び交う放射線の一つで、銀河宇宙の名前の通り四方八方あらゆるところからやって来る。その正体は、遠い星の超新星爆発や数多くの銀河系の中心にあるブラックホールなど、太陽系の外側からやって来る。数は少ないものの、ほとんどはヤケに重い粒子で、光の速度に近い速さで突っ込んでくるヘビー級の放射線。当たると痛い。
 2つ目は太陽粒子線。太陽風はプラズマだけど、こいつは太陽表面の爆発現象(フレア)などで吹き出てくる高エネルギーの粒子で、そのほとんどは陽子。太陽活動が活発なときにやってくる。割と速くて痛い。
 3つ目は捕捉粒子線と呼ばれるもの。太陽から出てきた太陽風やフレアなどに含まれる粒子が、地球の磁場に捕まったもので、ヴァン・アレン帯はその補足粒子線が集まった部分と言っていい感じで。ヴァン・アレン帯は内側(軌道の低い部分)に陽子が、外側(軌道の高い部分)に電子が詰まってて、人工衛星は軌道の高度によって、どっちか、もしくは両方の影響をうけることになる。あんま速くない。


 さて、これら三種類の宇宙線、衛星に与える影響も様々なのだけど、これも大雑把に分けると2つ。
 一方はシングルイベント効果(SEE)と呼ばれるもの。メチャクチャ高速な重い粒子が衛星内の電子回路を貫通していく時に発生するもので、半導体が壊れたり、壊れなくても誤動作したりする。
 もう一方はトータルドーズ効果(TID)変異損傷効果(DD)と呼ばれるもの。どちらも宇宙線が少しづつ電子回路やその素子の性能を劣化させていくもの。
 このうち、トータルドーズ効果は主に電気回路に問題を引き起こしていくけど、衛星内部の遮蔽をうまくやれば、ある程度は影響を軽減できる。けど、現状では影響を完全になくすほどの遮蔽はできないので、少しづつ劣化していく。
 変異損傷効果は、遮蔽することで影響を大きく軽減することができるので、衛星内部に影響をあたえることはあまりない。けど、この損傷は太陽電池パネルに引き起こされる。さすがに光に当てないと発電してくれない太陽電池パネルを遮蔽するわけにも行かないので、結果太陽電池パネルは必ず一定の割合で劣化していくことになる。

 前回の本でもとりあげた「はやぶさ」も、途中で遭遇した太陽フレアの影響でメモリエラーを起こしてプログラムなどを再送信する必要に迫られたり、太陽電池パネルが回復不能な劣化を引きおこし、特に電力を動力源とするイオンスラスタを搭載していたがために、最後まで電力不足に悩まされたのを覚えている人もいるかもしれない。

 このあたりの、どの宇宙線でどんな影響が起こるのかを図にまとめてみたり。



 で、こうした宇宙線の影響は高度によっても大きく変わってくる。
 低軌道と呼ばれる高度2000km以下の周回軌道では、ヴァン・アレン帯のうち、陽子の多い内側の部分の影響を受けやすい。国際宇宙ステーション(ISS)も、このあたり(高度400kmくらい)を回っている。
 中軌道は、高度2000kmから35786kmの静止軌道あたりまでの周回軌道。軌道の取り方でヴァン・アレン帯の内側外側両方の影響を受けることになる。
 静止軌道は、地球の磁気圏のギリギリに位置していて、銀河宇宙線や太陽粒子線の影響を強く受ける。
 静止軌道に向かう途中の静止トランスファ軌道が一番大変でヴァン・アレン帯を横切ることになって、この間割と強い宇宙線に晒され続けることになる。

 人工衛星や探査体は、その目的とする軌道やそこに「居る」(その軌道を撮り続ける)時間を考えて、宇宙線対策をしていかなきゃならないわけで。



 じゃあどんな対策してるのん?ってことになるのだけど、主に使われるのが「多重化」と呼ばれるもの。
 CPUだったら同じCPUをいくつも積んで、使ってたCPUが故障したら他のCPUに処理を移行させたり、CPUに同じ処理をさせて、その結果を多数決で決定して結果を出すみたいなことをしている(古くはNECのV60シリーズあたり既に実装されていた機能だけど)。
 メモリの方も、同じデータを何度も書いたり(データの多重化)、チェックサム(データの値を足し算するなどの一定の計算方法で答えを出して、その結果が合致していればデータは壊れていない、でなければデータが壊れていると判断する方法)をとったりして、宇宙線の影響を最小限に抑えられるよう工夫している。

 またCPUなどの電子部品そのものもサイクロトロンなどの放射線発生器などを使って劣化の具合を調べたり、その結果を元に劣化対策を施したりするおかげで、現在の最新のCPUと同等のものが宇宙用に使えるようになるまで、だいたい10年はかかる感じで。
 たとえば、2003年に打ち上げられた「はやぶさ」には、1994年に発売されたセガ・サターンに搭載されていたSH-2の強化型、SH-3が多重化されて搭載されている。宇宙はセガハードで溢れているのだろうか(溢れていません)
 
 ここまで人工衛星や探査体で使われる電子回路が宇宙で色々苦労する理由とか説明してきたけど、あらためて地球というのは色々恵まれた環境なんだなぁと思ったり。でも一旦宇宙に出てしまったら、どっちを向いても宇宙なわけで、これから使われる電子回路は、ますます宇宙で使われることが多くなるのは間違いない感じで。
 これからの進歩が待たれるところだったり。


 そんなわけで、その3に続くのです。

ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開2015に行ってきた話(その1/3)

◆そんな感じで
 気がついたらあっという間に夏コミも過ぎ去り、涼しかったり暑かったりでますますぐったり感あふれる状況となってしまいましたが、なんとか更新。

◆今年も
 今年も例によって2015年7月24~25日に開催された、JAXA相模原キャンパス特別公開を見に行ってきました。
 例によって色々見てきたのですが、去年・一昨年ほどではないにせよ猛烈な暑さと突然の雨、んでもって見学する順番を見誤ったり、見学二日目にコンデジを忘れるという大失態をかましたりして、色々と痒いところに手が届かない感じになってしまいました。
 それでも今年も色々みっしりと見聞できたので、適当に。
 今回、直前になってドタバタが発生した影響を食らって、イラスト少なめになってしまったのが超無念……増補できたら良いのですが……

 例によって「自分が分かればいいや」って感じで話を噛み砕いたり、適当な事書いていたりしますが、個人のアレってことでどうかご容赦を

 このサイトの内容を情報源にしてはなりませぬ。

 あと、今回も例によって内容は同人誌として纏めてあります。リンク先(Tumblr)に内容をベタで貼ってありますので、そのまま出力すれば買わずに読めます(容量の関係から若干解像度は落としてあります)。ただし内容としては本ブログが常に最新です。

 また、「ISAS/JAXA特別公開徘徊記2015」は夏コミの新刊となりましたが、8月30日に開催予定のコミティア(委託先:V30b「Black Dwarf」)及び10月4日開催予定のサンシャインクリエイション2015Autumn(委託先当落不明)で委託販売させて頂ける予定です。
 2014年までの徘徊記をまとめた「STARS AND THE EARTH」も残部僅少となりましたが、どうにか持っていければと……どっかの相模原の研究施設から100部くらいまとめて発注があったら改訂の上再販できるんだけどなぁ!(無茶言うな)

 あと、去年の特別公開見学記を読んでおくとわかりやすい部分が多いかもですよ。本当は前述した「STARS AND THE EARTH」が良いのだけど既に残部が……。
 2013年のレポートはこっちの方で。2014年のレポートはこちら2015年のレポートはこちらでありますよ。

 そんな感じで若干脱線しましたが、どうにかこうにか始まりであります。

★移動がめんどくさい人のための斜め読みリンク★
 その1その2その3


◆アストロバイオロジー
 去年の段階では計画中だった、「たんぽぽ計画」。これはISSの「きぼう」モジュールにエアロゲル製のダスト回収ユニットを搭載し、宇宙空間を飛び交う塵(ダスト)や微細隕石を回収調査することで、生命や、その痕跡を探すもの。ISSの軌道であれば、地球由来のものであれ、地球外由来のものであれ、生命やその痕跡が発見できれば、人間のような知的生命体の助力なしに生命は宇宙を自由に?飛び交うことが出来ると証明できるというものなのですが、今年は無事打ち上げられ(2015年7月時点)、ISSの「きぼう」モジュールに搭載されたということでした。
 これから一年め、二年目、三年目と少しづつ回収し、宇宙に飛び交うダストの中から、生命の痕跡などを探していくようです。


◆「あかつき」と重力井戸
 軌道制御用のメインスラスタ(OME)の破損と軌道投入失敗以来、ずっと灼熱の太陽に背を向けて耐え抜いてきた金星探査機「あかつき」。
 7月に、三回に分けて行われた軌道修正マニューバも無事成功した模様。二回目の軌道修正マニューバの日は、ちょうど特別公開の初日と重なっていて、「あかつき」の展示コーナーにも「みんなで払ってます」的な表示が出てました。
 で、今回の軌道修正マニューバには、破損したと考えられているOMEではなく、姿勢制御用のスラスタ(RCS)が使われていたいり。
 軌道制御エンジンとも呼ばれるメインスラスタは、セラミックスラスタの名の通り、燃焼器とノズル全体がセラミック製であるものの、構造としては通常のロケットエンジンで、燃料としてヒドラジンを、酸化剤として四酸化二窒素を利用している。ヒドラジンと四酸化二窒素を利用するのは、長期間にわたってタンクの中に貯蔵していても変質しないなどの利点があるため。
 一方のRCSは燃料としてヒドラジンを使う点は同じだが、ヒドラジンを触媒を用いて分解し、噴射を得ている。
 さてOMEに使われているセラミックスラスタ。いろいろと言われていはいるけど、ちゃんと一回目の噴射と軌道修正には成功している。
 じゃぁ何で二回目に吹っ飛んだのというと、燃料タンクを加圧するためのヘリウムタンクの逆止弁がうまく働かなかったから。このおかげで、燃料が決められたとおりに供給されなくなってしまい、エンジンが破損してしまったのだ。破損の理由も、燃料の供給が減った結果、本来想定されていたよりも燃料と酸化剤の混合比がより「効率的」になって高熱となってしまったからというもの。
 また、燃料の逆止弁が詰まってしまったのも、樹脂材料が酸化剤の四酸化二窒素を透過してしまう性質があり、それで酸化剤が燃料と混ざって(燃焼じゃない化学反応で)結晶ができて…というもの。
 こうした自体は想定されていなければならないものの、新しいエンジンを使うときに付きものである「やってみなきゃ分からなかった」という部分なのかなと。

 それでも例によっての、ギリギリの運用でなんとか軌道修正を果たした「あかつき」 。次は十二月の軌道投入マニューバのまで、また静かに耐える日々が続きそうで。

 さて一方で7月14日に冥王星への最接近を果たしたニュー・ホライズンズ。地球軌道の外側、外惑星への接近観測が、古くは「パイオニア」や「ボイジャー」。最近では「ガリレオ」や「カッシーニ」など比較的多く行われているのに対して、水星と金星の2つの内惑星に対して接近観測はそれほど多くない。周回軌道に乗っての観測ともなれば更に少なかったり(金星周回探査はベガ計画や「マゼラン」「ビーナス・エクスプレス」など、水星周回探査は2015年5月に水星に激突した「メッセンジャー」のみ)。
 これには、なんといっても太陽という巨大な星が関係していたり。
 星は簡単に言うと重力場という巨大なすり鉢状の穴の底に鎮座している。これは「重力井戸」と呼ばれるもの。
 金星や水星を探査しようとする時、太陽が作り出す巨大な重力井戸という急斜面の、その途中にある小さな穴に探査機を送り込まなければならないのだ(◆図必要)。
 水星あたりになると、その周囲を周回しているだけで太陽に引っ張られて軌道が歪んでしまうほど。
 一方、土星や木星の重力井戸も決して侮れない。太陽に比べれば小さいものだけど、宇宙を放浪する砂粒にも見たい内容な探査機にとっては、その重力井戸は巨大過ぎる。
 太陽の重力井戸という斜面の途中に、別の巨大なすり鉢があって、それが動いていると考えるとわかりやすいかもしれない(余計にわからないかもしれない)。
 そんな穴だらけの斜面がある中で、冥王星のようなヤケに遠方でムチャクチャ小さい目標の周囲を回る軌道に乗せるというのは、無茶ぶりもいいところ。
 それでも近くを通過させたい、というだけなら思いっきり「力強く投げて」やればいい。巨大なエンジンで加速してやればよいのだ。
 ところがそれでは近くを通過するときに、観測する時間が充分にとれなくなってしまう。だから木星や土星の重力井戸に捕まらないように(かつその重力を利用してスウィングバイで加速するなどしつつ)充分に速く、かつ観測するだけの時間がしっかり確保できるようにしなきゃならない。調整が面倒くさいすぎる。
 周回軌道を取るとなるとさらに難しい。冥王星のように外側に行くにせよ、金星水星のように内側に行くにせよ、ゆるくなげて、かつ他の惑星や太陽の重力井戸に捕まらないようにしつつ、時間を掛けて到着する必要がある。。
 例えば、前に出てきた「メッセンジャー」は打ち上げから水星周回軌道に到達するまで6年(その前に何度か接近探査を行ってはいるけど)掛かっているし、「ベピ・コロンボ」も、打ち上げから水星到達まで6年を要する予定になっている。周回探査は、貴重な知見を与えてくれる一方で、そこに至る道はヤケに遠くてめんどくさい。

 でもどっちの場合にも、十分な加速性能を持つエンジンが搭載されていれば、こうした時間は最小限で済む。十分なスピードでぶん投げた後、探査隊が自分で減速すればいいのだ。
 「あかつき」も、打ち上げ時の軌道(惑星位置)に恵まれていたとはいえOMEが正常に動作していれば、打ち上げ後約半年で金星周回軌道に乗ることができたわけで、そうした意味でもセラミックスラスタやイオンエンジンみたいな「惑星間空間を効率よく飛ぶための」高性能エンジンの開発は欠かせない感じで。
 

◆「れいめい」の運用
 2005年8月の打ち上げ以来、ついに運用が10年めに突入しそうな高機能小型科学衛星「れいめい」。
 前回は主にバッテリ関係の話題で取り上げたのだけど、100kg未満のいわゆるマイクロサットに分類されるDESTINYのご先祖様とも言える衛星。
 軽量低コスト化のため民生用(宇宙空間で運用されることを前提に設計されたものではなく、普通に車載用として販売されている)のCPU、GPS、リチウムイオン電池を搭載したり、光ファイバージャイロセンサーを搭載したり、安価で簡単なシステムで衛星の自動運用をテストしてみたりと、様々な新規技術やコスト軽減策を盛り込んでいる。その一方で、小型衛星であり、小さなプロジェクトであることを活かして衛星運用のためのノウハウを若手の科学者や技術者に習得継承してもらうという役割も担っている感じで。
 もちろん衛星そのものの主な目的であるオーロラやそれに関係する磁場圏の観測でも充分な成果をあげていて、オーロラのある種の観測(地球の磁力線と地表が交わる部分でのオーロラの観測)では、現時点で最も細かい時間間隔と最も高い解像度で観測している。
 で、衛星側、地上局側の両方が様々な問題に遭遇直面し、それらを解決しながら運用を続けてきたわけなのだけど、この10年の間に予測もしていなかった問題に遭遇し始めている。

 もちろん、軌道上にある衛星の機能のある程度の劣化は最初から想定されていたものだし、数年の運用を予定してきた「れいめい」が10年間運用を続けたれた事は、それだけでも貴重な情報。
 ところが、最近になって、地上局側に想定もしていなかった問題が持ち上がりつつあったいり。
 長期運用の中で現在問題になっているのが、地上局側で用いられている管制のためのコンピュータシステム。これらは、コストを下げるために、全てではないにせよ、多くの部分に市販のPCやソフトウェア、あるいはフリーで手に入るそれらが使われているのだけど、これらが最近になって更新が困難になってきている、という問題に直面している。

 導入直後はハードも比較的新しく高性能なものだったけど、市販品、フリー問わず、ソフトウェアがアップデートを繰り返す中で、運用しているハードウェアへのサポートが終わってしまうという事態が起こり始めているのだ。同様にハードウェアの更新もまた問題となっている。
 ここまでの話の限りではソフトとハードの更新を同時にすればいいんじゃね?と思われそうだけど、そのあたり聞きそびれたー!
 また、小型でコストが押さえられているとはいえ衛星の運用には予算が必要。もちろん、予算は成果に応じてしか得られない。数多くの優れた観測といった「目に見える」成果だけでなく、民生品の活用、や若手技術者や科学者へのノウハウの習得継承、長期運用における問題点の発見と解決という「目に見えない」成果を数多く挙げていたとしても、中々思い通りに行くものではない。
 予算は結局成果に対してしか得られないため、充分な成果を上げていないと判断されれば、予算は付かない。結果「その衛星が生きていて、まだこれからも長期運用に耐えうる状態」であっても、その衛星を「捨てる」という選択を得ざるをえないかもしれない、という問題が発生しているのだ。
 もっとも、これは「れいめい」だけの問題ではなく、実用でない科学衛星や惑星探査機は常に予算の削減と戦っているような状態と言ってもいいのかもしれない。

 衛星の長期運用が可能になっていくと、それだけのノウハウの蓄積とコストダウンが望める一方で、観測機器やシステムが旧式化し、得られる情報も最新式の観測機器に比べれば、限られたものとなっていってしまうのは間違いないし、仕方ない感じ。
 ただこうしたノウハウが新たな科学技術衛星の運用で無駄になっていくことは少ないんじゃないかと。
 より少ないコスト、小さいロケットで優れた科学衛星、新宇宙探査体を打ち上げることだって出来るようになるかもしれないし。
 そうしたアップデートと長期運用のバランスを取りつつ、色々試していって欲しいなぁと思った次第。


◆またもや電池の話
 前回色々面白すぎた電池の話、今回もまた色々と面白い話が沢山たくさん。
 前の本で紹介した「サバチエ(サバティエ)反応」は、基本的には水素と二酸化炭素を高温高圧下で反応させてメタンと水素を発生させる化学反応。
 それを日本の科学者が触媒などを利用して常温常圧の条件で(しかも発電させながら)進行させることに成功したというのがポイントだった。
 さてこうした反応で、得られる様々な炭化水素。これらには重要な意味がある。
 そりゃたしかに工業原料かもしれないけど、それ以上の意味があるの?と思われるかもしれないけど、そのあたり順を追って説明してみようかと。

●水素は逃げる
 さて、幾つかの生成物があるのだけど、特にメタンを中心に説明していく方向性で。
 メタンは化学式で書くとCH4。炭素一つの水素が4つくっついた、炭化水素としては一番単純なもので、人間には特に害はない(もちろん酸素のかわりにメタンを吸うみたいなことをすれば窒息するけど)。屁とか臭いですぐメタンを想像すると思うけど、メタン自体は無味無臭の気体。めっちゃよく燃える。
 地球温暖化物質の一つとしてもよく挙げられるけど、そんなもん何で重要なのん?って感じ。
 でも、とても大切なのだ。

 さて、燃料電池というものは、水素と酸素を利用して電気を生成し、反応物として水を排出する。その量は、1kW級の燃料電池で一分間に約1ccくらい。水蒸気そのものの、地球温暖化物質として扱われることがあるけど、今回はそれは考えないことに。
 問題なのは、この逆。水を電気分解して水素と酸素を作ったときの場合。酸素は特に問題ないのだけど、水素は意外と困った性質を持っている。非常に燃えやすいのもあるのだけど、集めにくくて、とにかく軽い。
 どれくらい軽いかというと、容易に地球の大気圏の上層部に浮かび出て、太陽風で吹っ飛ばされていくレベル。
 ただでさえ原子のサイズが小さいために、隙間から抜け出やすいのに、抜け出たものを回収するのは非常に難しく、逃げた水素は宇宙空間に散っていってしまうのだ。
 水素が散っていくとどうなるか。
 酸素は残るものの、それとくっつく水素が無くなるため、結果的に地球から水が失われていくことになる。


 電気分解を用いて、水から燃料電池の「燃料」とんなる酸素と水素を生成する事で、地球からどんどん「水」を消滅させてしまう。
 今の時点では、燃料電池も一般的な電源とはいえず、こうした水の電気分解は、それほど積極的に行われているわけじゃない。でも燃料電池がより効率的になり、様々な場所で使われるようになてくると話は変わってくる。
 工業的、大々的に水の電気分解が行われることで、地球の水を目に見える形で減らしてしまうかもしれないのだ。
 そうしたことを防ぐために考えられているのが、電気分解で生成した水素をその場で炭化水素に変換すること。
 一旦メタンなどの炭化水素に変換してしまえば、単体の水素に比べて、回収しやすく保管も用意になる。扱いがグッと楽になる。液化する温度は水素がマイナス253℃なのに対して、メタンはマイナス162℃。この温度は安価に作ることのできる液化窒素(マイナス196℃)よりもはるかに高く、容易に液化させる事ができる。
 原子のサイズも水素よりかなり大きいため、密封のためのシール材を高性能なものにする必要もなくなる。金属と水素が触れ合うことで発生する金属の劣化(水素脆性)を気にする必要もなくなる。
 何より水素が宇宙に逃げて行くことを抑えることが出来る。
 二酸化炭素、水素、水、そしてメタンと発電のサイクルを組み合わせて循環させることで、二酸化炭素の回収と再利用。そして水の維持を図ろう、という感じ。
 メタン・二酸化炭素の循環型社会を目指しているのだ。
 で、最初に実験のための目標としているのが国際宇宙ステーション(ISS)。
 近い将来、まだ国際宇宙ステーションが稼働している間に、こうした循環システムの実験が行われるんじゃないかと。

 さて、ここまで説明してきたメタンのような、水素をエネルギー資源として利用しやすくするために、他の物質と化合させて扱いやすい状態にしたものは、「エネルギーキャリア」と呼ばれている。現在主に研究が進められているんが、アンモニア、シクロヘキサン、そしてここまで説明してきたメタン。
 何でメタンとかなのん?という疑問が出てくるだろうけど、一番簡単な利用は、こうした物質は今ある化学工場や保存設備とかがそのまま転用できるのが大きい(メタンはいわゆるLPガスや都市ガスの主な成分の一つ)。新しい設備投資を抑える事ができるのだ。また、現状では、メタンは質量や、体積当たりの水素密度が比較的高く(アンモニアに次ぐ)、またここまで説明してきたとおり、二酸化炭素を利用したエネルギーサイクルに組み込みやすいという点もあったり。
 こうした研究は、まだまだ途上で、どのエネルギーキャリアが主流となるのか、あるいは別の方法が生み出されるのかはわからないけど、追っていて楽しい話題。どうなっていくのか目が離せない感じで。

・なかなか小さくならない電池
 さて、人工衛星や探査体の重さのうち、電池で占められる割合はだいたい7%くらいだと言われている。コンピュータなどの電子回路や一部の電力回路は、半世紀ほどの間に半導体技術の進化で一気に進歩し、小型高性能化と低価格が進んでいるのは、ここで説明するまでもないんじゃないかと。
 電子回路の方は、真空管を祖として考えたとしても、1902年の二極真空管の発明がもっとも古い。いわゆるコンピュータの祖と言われているENIACは1946年に完成。電子回路でない、しかも完成することのなかった「解析機関」の発明ですら1837年になってからだったり(それでも充分すごいのはここでは置いておく感じで)。
 1966年に開発されたアポロ宇宙船のコンピュータ(アポロ誘導コンピュータ)は、動作クロック1MHz(入力クロックは2MHzだけど内部で分周されている)、搭載メモリ容量(RAM)が4キロバイト(ただし、レジスタが16ビットワードだったので実質2キロバイト)。価格はだいたい10億円程度ではないかと言われている。
 既に退役したスペースシャトルだけど、元々宇宙往還機として設計された理由として、当時は非常に高価だったコンピュータユニットを、一回の打ち上げごと使い捨てるのは予算的な問題もあって困難だった事が挙げられるほどだったのだ。
 一方、最近の一般的なパソコン用のCPUは動作クロックが3GHz以上、メモリは8~16ギガバイトで販売価格は10万円程度(!)。
 宇宙技術が枯れたシステムを好むと考えて、10年前(2000年代前半)のパソコンですら、動作クロックは2GHzで搭載メモリは1ギガバイトを超えていたのだから、その差は歴然としている。
 もう比較にならんほど安く小さく高性能になってしまった感じで。

 一方の電池は、知られている限り最も古いものとしては、古くは約2000年前の遺跡から発掘されたバグダット電池が挙げられる。電池として使われていたか、本当に電池なのか、電池として使われていたかは異論がある一方、周囲からは「これ電気メッキしたんじゃね?」って思われるような装飾品などが発掘されている。
 今広く使われている近代的な電池に限っても、1791年にイタリアのルイージ・ガルヴァーニが、ガルバニ電池を発見している。
 二極真空管と比べても100年の差があるのだ。
 電池は既に枯れた技術であり、電子回路に比べると、既存の材料と技術を使う限り、これ以上の小型化は難しい状態になっている。枯れた技術の好まれる宇宙開発においてはなおさら辛い感じで。
 おかげで、電池は(最近その速度はある程度鈍化したとはいえ)日々小型化・高性能化を続ける電子回路に比べて、衛星の中で大きな質量を占める事になってしまう。なもんで、電子回路関係や観測機器関係の人から「お前の所はもっと小さくならんのかー!」的な話をされることも多いのだとか。
 仕方ないとはいえ、難しいところだよなぁと思った次第。
 
 で、またなんかすごいことやってた……。

 水の電気分解と二酸化炭素の供給から連続的にメタンと酸素を生成するほうほうなのだけど……
 投入エネルギーの105%の水素生成ってな……(多分、入力した電気分解用の電力(エネルギー)に対する水素燃焼熱の比だと思うのだけど、びっくりしすぎて詳しく聞くの忘れた)

 なに
 それ

 もはや言葉も無い…毎年毎年スナック感覚でクラークの三法則第三条を達成するんじゃねえ!?(褒め言葉)。



 そんな感じで(その2)に続くのでした。

2015年7月26日日曜日

行ってきたー(追記)

◆行ってきました

 まとめるべき色々が多すぎるので、委細は後ほど。
 去年同様夏向けの本にしておくべきかなぁ……

 で、ここしばらく、ニュー・ホライズンズの冥王星最接近とか色々あったんですが、全然触れられなかった……特別公開日の二日目に金星探査機「あかつき」の関係者の方が多くいらしたということは、二回目のマニューバは無事成功した模様。

 あと、今回も二日間共に参加したのですが、二日目にコンデジを忘れるという痛恨のミス。他にも色々あって、若干悲し目の特別公開でありました……でも色々お話聞けた。

◆見てきたー(追記)
偶然空いている瞬間があって、整理券なし、待ち時間無しで見ることが出来ました。
 しかし、よくテレビやネットで公開されている電子顕微鏡写真と違って、青く透き通ったガラス片のようでした。
 もちろん、これはいくつも回収された破片のうちの一つで、その中でもかなり大きなものなのですが。
 でもこれだけでもイトカワの印象が変わった次第。



◆かんたんコレクション

 かんたんコレクションまとめてみた。自分の倉庫にいる子くらいは全員描きたいなぁ。

2015年5月12日火曜日

ふたば学園祭10、お疲れ様でしたー

◆ふたば学園祭10、お疲れ様でしたー
 今年は一週間くらいでどうにか更新出来たぞ!(去年は三週間)
 それはさておきふたば学園祭10に参加された皆様、お疲れ様でしたー

 今回も例によっての色々を描いた次第。それなりの量になったので4ページに分けてありまする。




 こちらでも読めます。
 http://stillforget.tumblr.com/post/118620417000/10
 http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=50320540

 今年も例によって多くの方にお世話になってしまって本当に申し訳ない次第。ありがとうございまするー。
 新刊の方は大物に置いてありますので、気が向いたら見てやってくだされー。

 さて、今年はゲスト参加を5件、新刊を二冊も出したあげく(去年の「ツヴァいさんの本・VSOP」も含めると三冊もサークルに並んだ!!)、プレゼントかやらかして本当に青い顔になってしまったわけですが、色々聞いたり調べたりするに、どうやら生き残れた模様。
 でも、もうやりたくないー。来年はのんびり参加したいです。新刊も一冊にして。

◆んでもって
 今回の「ふたば学園祭10」での新刊である「STARS AND THE EARTH」「こういさんの本・R-18」は、例によってまだ在庫があります。
 6月に開催されるサンクリや、8月に開催される夏コミ及びコミティアに持っていく予定ですので、気が向いたら見てやってくだされー
(2015年5月13日追記)
 あと、「STARS AND THE EARTH」オンライン正誤表です。随時更新されますので、ご確認頂ければいい感じです。

◆ゴムの日
 5月8日はゴムの日でした。
提督「大井!お前の馬力じゃ無理だ!」
大井『馬力じゃ勝てない……でもゴムが切れたなら、どっちに行くか分からない……はず!』
(ぶちっ)


(次点・ゴルゴムの日)

2015年4月30日木曜日

ふたば学園祭10・参加告知であります

◆ふたば学園祭10参加告知であります
 そんなわけで前回の後進から半年近くが経過してしまいました……Tumblrとかpixivの方もご覧になられている方はお分かりの通り、別にさぼってたわけではないのですが、文章として書くことが無くて、絵ばっかり描いておりました。

 んでもって本題
 来る5月3日(ってもう三日後?!)に、蒲田の大田区産業プラザPioで開催されるふたば学園祭10への参加と、新刊の告知であります。

 サークル名と配置場所は以下のとおりです。

 F-16・「海より深く感謝」

 現状年に一度の自前での即売会参加で、一番気合が入っているわけですが、今回は新刊がなんと二冊であります。
 一冊目は去年の夏コミに上梓した「ISAS/JAXA相模原キャンパス特別公開徘徊記」を超大幅増補(ほぼ書き直しですが)
 色々全部詰め込もうとしたら、多すぎて、ひたすら内容を削りまくってどうにか詰め込んだ一冊

 STARS AND THE EARTH.であります。
 表紙がこんな感じ

 フルカラーカバー(!)付き、新書版で180ページの厚めの本であります。
 内容見本は以下のとおりです。






既に誤字脱字が多数発見されておりますが、どうにかして、簡易的な正誤表を付けたいなぁと。
(2015年5月13日追記)
 ふたば学園祭10にて紙の簡易正誤表を添付しましたが、オンライン正誤表を開設しました。
 随時更新されますので、ご確認頂ければいい感じです。

 で、もう一冊が、こちらは成人向けのマンガですが「こういさんの本・R-18」
 そのまんまのタイトルです。
 表紙はこんなかんじで

おねショタ気味の一冊。B5版28ページで、こちらもカラー表紙となっております。
 描いてる時間の7割はこういさんの髪の毛描いてました……次はもっと単純な髪型にしたい……あとロリこういさん描けなかった……うぎぎぎぎぎ。

 そんなこんなで山盛りでの参加になりそうです。

 もう数日後には開催という切羽詰まった状況ではありますが、この他にも隠し球とか用意しつつ、ご来訪をお待ちしておりまするー